不老少女とふわふわたあめ
158 「後悔なんかとっくにしてる」
意を決した錬金術士の行動は早かった。
それにはかなりの時間を要するからだ。
「こんなことになるなら、ここまで厳重に封印なんかするんじゃなかった」
「いまさらそんなことを言っても後の祭りというやつさ。急ぎたいのであれば少しでも早く、深く集中するべきではないのかな?」
「わかってる」
誰のせいでこうなったんだ、どうして引き止めてくれなかったんだ、と言いたい気持ちを押さえつけて、錬金術士は静かに手をかざす。
さすがのお手伝いさんも知らない、彼女の自室にある地下への隠し扉。その封印を解除するために。
(魔女であることはとっくにやめた。二度と魔女なんかやらないって決めた)
この世界で、魔女は畏怖の対象だ。
魔法は人を壊し、人間を殺し、人類を滅ぼす。
でも。
(でも……あんな忌み嫌われた力でお手伝い君を助けられるなら、私は……)
魔女なんて、いくらでもなってやる。
人々から忌み嫌われたって構わない。それでもお手伝いさんだけは受け入れてくれると信じている。
錬金術士には、それだけで充分だった。
彼女は、あのときの言葉を忘れてはいない。
〝先生が魔女だったとしても別に驚かないですけどね〟
うっかり喋らないようにしていた単語を言ってしまったとき、彼はそう言ってくれた。
彼は嘘が下手だ。だからこの言葉が本心であるとすぐにわかった。
(もどかしい……本当にもどかしい……!)
焦らないように気を付けながら、秘密の地下室への封印を解いていく。
「ドラゴンなんて来なければよかったのに……」
全ての原因はドラゴンだ。
そもそも生息地からあまり動くことのないドラゴンがどうして現れたのか。
自分たちには関係ないからと気にしないできたが、今となってはそうも言っていられない。
「それなんだけどね、小生には少々気になることがあるのだよ。話に耳を傾けなくていいから聞いてくれ」
あくまで封印の解除に集中するようにと釘を刺しつつ、いぬねこは続ける。
「君も知っている通り、ドラゴンとは巨大で、強大で、凶悪な生物だ。一度目の当たりにしたことがあるからそれはわかるだろう。だが、少し変だとは思わないかな? 我々はドラゴン出現の手紙をもらってから何度か王国へ行く機会はあった。だがドラゴンの話題は虫の知らせほどもなかった。いくら国民に伏せているとはいえ、これはおかしい。ドラゴンが住処から動いただけで噂くらいは流れるはずなんだ」
ドラゴンという生物の影響力は、ある意味では魔女よりも大きい。情報の規制なんて可能なレベルの話なのだろうか。
いぬねこはそこに疑問を感じたようだ。
「だというのに、先日はお祭り騒ぎだったそうじゃないか」
錬金術士とお手伝いさんが王国へ買い物に行ったとき、国を挙げてのサービスデーだった。
いぬねこは、あえて開催してドラゴンの件を隠そうとしているのではと言っていたが、本当にただのサービスデーだった?
「いずれにせよ、今回のこの一件、何かある。君が魔女に戻ってしまったら、後戻りはできないよ。きっと後悔する」
「いぬねこちゃん」
錬金術士は、瞬きすらも忘れて集中しながら、ゆっくりと紡ぐ。
「私が魔女になった時点で、後悔なんかとっくにしてる。いまさら変わらないよ。それに――私ってお手伝い君のこと大好きだから、お手伝い君がいないと何もできないから……お手伝い君を失いでもしたら、後悔なんて比じゃない。壊れるよきっと。何もかも」
この世界もろとも。滅ぼすと思うよ。
彼女の言葉に、嘘は欠片も無かった。
それにはかなりの時間を要するからだ。
「こんなことになるなら、ここまで厳重に封印なんかするんじゃなかった」
「いまさらそんなことを言っても後の祭りというやつさ。急ぎたいのであれば少しでも早く、深く集中するべきではないのかな?」
「わかってる」
誰のせいでこうなったんだ、どうして引き止めてくれなかったんだ、と言いたい気持ちを押さえつけて、錬金術士は静かに手をかざす。
さすがのお手伝いさんも知らない、彼女の自室にある地下への隠し扉。その封印を解除するために。
(魔女であることはとっくにやめた。二度と魔女なんかやらないって決めた)
この世界で、魔女は畏怖の対象だ。
魔法は人を壊し、人間を殺し、人類を滅ぼす。
でも。
(でも……あんな忌み嫌われた力でお手伝い君を助けられるなら、私は……)
魔女なんて、いくらでもなってやる。
人々から忌み嫌われたって構わない。それでもお手伝いさんだけは受け入れてくれると信じている。
錬金術士には、それだけで充分だった。
彼女は、あのときの言葉を忘れてはいない。
〝先生が魔女だったとしても別に驚かないですけどね〟
うっかり喋らないようにしていた単語を言ってしまったとき、彼はそう言ってくれた。
彼は嘘が下手だ。だからこの言葉が本心であるとすぐにわかった。
(もどかしい……本当にもどかしい……!)
焦らないように気を付けながら、秘密の地下室への封印を解いていく。
「ドラゴンなんて来なければよかったのに……」
全ての原因はドラゴンだ。
そもそも生息地からあまり動くことのないドラゴンがどうして現れたのか。
自分たちには関係ないからと気にしないできたが、今となってはそうも言っていられない。
「それなんだけどね、小生には少々気になることがあるのだよ。話に耳を傾けなくていいから聞いてくれ」
あくまで封印の解除に集中するようにと釘を刺しつつ、いぬねこは続ける。
「君も知っている通り、ドラゴンとは巨大で、強大で、凶悪な生物だ。一度目の当たりにしたことがあるからそれはわかるだろう。だが、少し変だとは思わないかな? 我々はドラゴン出現の手紙をもらってから何度か王国へ行く機会はあった。だがドラゴンの話題は虫の知らせほどもなかった。いくら国民に伏せているとはいえ、これはおかしい。ドラゴンが住処から動いただけで噂くらいは流れるはずなんだ」
ドラゴンという生物の影響力は、ある意味では魔女よりも大きい。情報の規制なんて可能なレベルの話なのだろうか。
いぬねこはそこに疑問を感じたようだ。
「だというのに、先日はお祭り騒ぎだったそうじゃないか」
錬金術士とお手伝いさんが王国へ買い物に行ったとき、国を挙げてのサービスデーだった。
いぬねこは、あえて開催してドラゴンの件を隠そうとしているのではと言っていたが、本当にただのサービスデーだった?
「いずれにせよ、今回のこの一件、何かある。君が魔女に戻ってしまったら、後戻りはできないよ。きっと後悔する」
「いぬねこちゃん」
錬金術士は、瞬きすらも忘れて集中しながら、ゆっくりと紡ぐ。
「私が魔女になった時点で、後悔なんかとっくにしてる。いまさら変わらないよ。それに――私ってお手伝い君のこと大好きだから、お手伝い君がいないと何もできないから……お手伝い君を失いでもしたら、後悔なんて比じゃない。壊れるよきっと。何もかも」
この世界もろとも。滅ぼすと思うよ。
彼女の言葉に、嘘は欠片も無かった。
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