不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

142 「意外」

 郵便ちゃんのお姉さんに手を強引に引かれて連れてこられたのは、彼女の自室であった。

 年の頃はお手伝いさんと大差ない女の子の部屋。

 錬金術士の部屋には何度か入ったことはあったが、それ以外では初めてだ。

 だから彼は驚いた。むしろ引いた。

「こ、これは……」

 部屋の中は殺風景というか、殺伐としていた。

 決して物が無いわけではなく、むしろ物で溢れているのだが、その物自体が問題である。

 壁には剣や槍、銃などありとあらゆる武器がかけられ、壁の面積の方が少ないほど。床にもいくつか武器が転がっている。

 おまけにトレーニング機器の存在感も半端なものではなく、ベッドが置いてなければどう見てもトレーニングルームで女の子の部屋とは到底思えない。

 むしろベッドですら何かのトレーニング器具かと疑いたくなってしまうほど、この部屋はそれらで溢れかえっていた。

(先生の部屋とは大違いだ……)

 錬金術士の部屋はふわふわのもこもこで溢れていたが、この部屋はガチガチのゴチゴチで重厚感が半端ない。

「あ、あまり見ないでくれる……? なんか思ってたより恥ずかった……」

 顔を伏せて、モジモジとする郵便ちゃんのお姉さん。

 彼女も男性を自室に連れ込んだことなどないらしく、想像以上の気まずさに戸惑っているようだ。

 お手伝いさんは言われた通り見ないように意識しつつ(とは言っても360°囲まれているので無理な話だったが)声をかけた。

「あの、それで……僕に何の用でしょうか?」

 聞くと、そうだったとばかりに咳払いをしてから、お手伝いさんに詰め寄る。

「さっき言ってたことって本当?!」
「さ、さっきって?」

 いきなり現れていきなり連れ去られたので、どんな会話をしていたのかよく思い出せないお手伝いさん。

「アトリエから来たって話よ!」
「あ、ああ。ええまぁ」

 勢いに押されてしどろもどろになりながらも答える。

 すると、じろりと頭のてっぺんからつま先まで品定めするように睨まれた。錬金術士の師匠ほどの絶対的な圧力はないが、鋭い威圧感はある。

「ふーん……錬金術士って噂に聞いてた通りヒョロイのね」
「え? いえ、僕は――」
「まあいいわ。あなたの仕事は後方支援だから」
「いやだから――、うん? 後方支援?」

 自分は錬金術士ではないと言おうとしたのだが遮られ、さらに追い討ちをかけるように理解できないことを言ってきた。

「そういえば自己紹介がまだだったわね。わたしは王国騎士団疾風はやて隊隊長の、サミよ。あなたはわたしの隊の所属になるから、もろもろよろしく」

 王国騎士団。

 ということはドラゴン討伐に関わっている人で、さらに隊長。自分はその下につく。

 お手伝いさんが理解に及ぶまでの数秒、沈黙が舞い降りて――、

「えぇぇぇぇぇ?!」

 驚きの悲鳴が闇夜に包まれた民家に轟いたのだった。

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