不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

140 「マジ天使」

「やっぱりまずは挨拶しないといけませんよね……うう、気が重い……胃が痛くなってきた……」

 腹部に手を当ててげんなりと呟くお手伝いさん。顔色も悪いし、今にも吐きそうだ。

「これからどうしよう……」

 夜中にアトリエを後にした彼は、思いのほか早く王国に着いてしまった。

 思えばどこかへ行くときはたいてい錬金術士が一緒だった。いつも彼女の歩く速度に合わせていたから、時間の計算を間違えた。

「今お城に寄ったところで不審者扱いされるかなぁ……? 手紙があるから証明はできるんだけど……」

 郵便ちゃんが届けてくれた手紙があれば、自分がアトリエの者だと示すことができる。

 怪しまれることはないはずだが……。

「せめて日が昇ってからだよね、うん」

 まだ日も上らぬ暗い時間にお城へ赴くなど失礼にもほどがあるだろう。
 どこか宿が空いていればいいのだが――、


「申し訳ございません、現在すべて埋まっておりまして……」
「そうですか……」


「すみません、いま改修工事中でして……」
「あ、わかりました……」


「ごめんなさい、男性客はご利用できないんですよ」
「は、はぁ……?」


「あらやだあなたカワイイじゃないの♡ アタシ好みの顔してるわぁん!」
「し、失礼しましたあぁ!!」


 ――全滅だった。彼の思い当たる宿や、偶然発見したところにも入ってみたがすべて運悪く利用できなかった。

 まるで今日は宿に泊まるのはやめておきなさいと神様が言っているかのようだ。

「しょうがない……今日はどこか野宿でもできそうな場所を探すしか……」

 雨風しのげる場所であればもうどこでもいい。アトリエから歩いてきた疲労も溜まっていたし、宿を探し回って疲れてしまった。

「そうだ! ちょっと怖いけど、親父さんのところに一晩だけ厄介にしてもらうっていうのはどうだろう?」

 王国に来たときは必ずと言っていいほどに立ち寄る食堂。そこの店主とは顔見知りなので、頼み込めば一晩くらいは泊めてくれるだろう。

 代わりにゲンコツが飛んでくるか、後継になれと条件を出してくるか……どうなるかはわからないが、野宿をするよりはマシか。

「いや、これだと野宿の方がマシか……?」

 悩んでいると、彼の背後から、救いの声が響いてきた。

「あれっ? もしかしてお手伝いさんですかっ? どうしてこんなところにっ??」

 この子供っぽい高い声に跳ねるような口調は……!

 勢いよく振り返った先には、小首を傾げて大きなウサミミを揺らす郵便ちゃんことチナが佇んでいた。

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