不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

特別編25 「敬老の日」

 だだっ広い草原にポツンと建っている、錬金術士一行が住まうアトリエで、毎度のことながら、突然の叫び声が響き渡った。

「お手伝い君! 私を敬いなさい!」
「いや、これまた唐突にどうしたんですか……?」

 ビシッ! と腰に手を当てて指を差してくる彼女の言動に、また何か始まったか、と肩を落とすお手伝いさん。

 彼もいきなりな発言にはとっくに慣れているので、反応は薄いものだった。

 そしてこういうことを言い出したときは、決まってパートナーのいぬねこが何か入れ知恵したと相場は決まっている。

 すると案の定、犬にも猫にも見える不思議な動物が援護射撃をしてきた。

「そうだね。君は彼女を敬わなければならない。何故なら今日はそういう日だからだ」
「『そういう日』ってどういう日ですか?!」

 何の理由もなくいきなり「敬え」と言われて「ははぁ〜……」と地面に額を擦り付ける人間などいない。

 確かにお手伝いさんは錬金術士を慕っている。しかし、だからと言って何でもかんでも彼女の言いなりになるほど心酔してはいない。

「今日は年長者を敬愛し、長寿を祝う日なんだよー!」

 なぜか胸を反らして誇らしげに言う錬金術士。

「年長者を敬愛? いぬねこちゃんならまだしも、先生は僕と大差無いじゃないですか!」

 二人とも外見だけは同い年に見える。むしろ錬金術士の方が中身が子供である。

「いやいや、小生はこう見えてもまだまだ若い。落ち着き払った態度が大人な雰囲気を醸し出してしまっていることは認めよう。しかしそれでも長生きとは言い難いのだよ」

 いぬねこ独特の回りくどい言い回しだったが、それでは——、

「敬う人がどこにもいないですね。じゃあこの話はおしまいということで——」
「ダメダメ! ダーメ! お手伝い君は私のことをうやわまなからかは……うわやま……あれ」
「かみかみですね先生」
「うるひゃいよー!」

 どうにも締まらないアトリエからは、楽しげな声がいつまでも響いてくるのだった。

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