不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

125 「前兆」

「ご苦労さまです」
「はいっ! それでは失礼しますっ! お体、お大事にですっ!」
「ありがとう」

 にっこりと満面の笑みで言う大きなウサミミがトレードマークの郵便ちゃんことチナ。

 お手伝いさんは郵便物を受け取ると微笑み返し、砂埃を巻き上げてあっという間に遠くなっていく小さな背中を見送る。

 郵便ちゃんから受け取ったのは手紙が数通ほど。王国に住む人からの、依頼の手紙だろう。

「……ん?」

 差出人を確認して、お得意様だ、こっちは新規の人だ、なんて思いながらアトリエに戻ろうとしたら、最後の最後でとんでもないものが混ざっていた。

「せ、先生! 先生!」

 扉を蹴破るような勢いで駆け込み、名を叫ぶ。

「しー。静かにしたまえ。君ともあろう者がそんなに慌てるなんて何事だい?」

 犬にも猫にも見える動物、いぬねこが息を切らせているお手伝いさんをたしなめた。

 ふわふわの白衣を着た錬金術士は練金の真っ最中である。それには多大なる集中力を必要とし、失敗すれば大爆発を巻き起こす。

 作業中の彼女の気を削ぐことは、自殺行為にも等しいのだ。

 ご、ごめんなさい、と小さく謝りつつ、彼は郵便ちゃんから受け取った問題の手紙をいぬねこに差し出した。

「これは……! なるほどなるほど、君が慌てるのも無理はないのかもしれないね」

 冷静に言って、いぬねこの額にも汗が滴り始める。もふもふの毛皮があるので、外見だけではわからないが。

 差出人は、国王ミストラージ5世。

 つまり王様からの手紙であった。武器の大量生産を依頼された時以来の連絡。

「もしかして何か不手際があったんでしょうか? 粗悪品だったとかでしょうか?!」
「落ち着きたまえ。確かにあの子は武器の練金は苦手としているが、あの練金棒のおかげで克服したと言っていいだろう。ただでさえ師匠あの女に会いに行ってスタートが遅れたのだから、もっと生産性を上げろという催促か、あるいはもう充分だという仕事終了の合図か……」

 災厄の象徴であるドラゴンの目撃情報が入り、自国を守るために足りない武力を補給する目的で錬金術士に武器大量生産の依頼がきた。
 生産性を上げろと言うのであれば上げればいいだけの話だが、もし後者――仕事終了の合図であった場合。

 それは、王国がドラゴン討伐に乗り出す時期と見ていい。

「いずれにせよ、答えは手紙コレの中ですか……」
「うむ。あの子は集中しているし、小生はこのなりだから封を切れない。君が開けてくれたまえ」
「わ、わかりました」

 固唾を飲んで慎重に王冠の封蝋を切り、中の手紙を取り出す。
 丁寧に折り畳まれた手紙を開き、いぬねことを一緒に覗き込む。



 その内容は……後者であった。

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