不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

119 「視線」

 女性の下着を購入するという地獄じみた所業を乗り越え、お手伝いさんはまたひとつ成長した。

 しかし今回王国に来たのは主に食料の購入が目的。重くなるため最後に回しているので、他に欲しいものがなければ食材を買い求めて帰るだけとなる。

「先生は他に欲しいものとかありますか?」
「うん? まだ何か買ってくれるの~?」
「それは物によりますけど……」

 もう二度とあんな(心が)痛い思いをしたくはない。
 聞かれた錬金術士は少し考えるが、首を振った。

「特に無いかな~。だいたい作れるし」

 彼女はその名に恥じない錬金術士だ。材料と知識さえあれば、錬金術で大概のものは作れる。ただし例外はもちろんあるので、こうして買い物をする必要もあるのだ。

「そうですよね。では、市場に行きましょう。サービスデーなので、覚悟しておいてくださいね」
「は~い」

 久々の買い物とあってお手伝いさんは盛り上がっていた。

 大勢の人で行き交う市場へやってくると、お手伝いさんの目は爛々と輝く。色とりどりの食材が長い通りの端から端までを埋め尽くしていた。

「先生見てくださいよ! どれも3割は安くなってますよ! ああ! これなんか半額ですって!」
「そうだね~」

 子供のようにはしゃぐお手伝いさんを見て、錬金術士はニコリと微笑みながら相槌を打った。

 しっかりと目利きして、いい材料を安く仕入れる。
 そういう意味では、彼は行商人などに向いているかもしれない。錬金術など学ばなくても、その道で成功を収められそうだ。

「お姉さん、これください!」
「あらやだお姉さんだって! これもおまけしちゃおうかしら!」

 おまけにおだてるのも上手い。日ごろ錬金術士のご機嫌を取っているだけのことはあった。

 いつの間にか身に付いていたそんなスキルを駆使して、この日錬金術士とお手伝いさんは抱え切れないほどの食材を購入。

「いやぁ、いい買い物しましたね!」
「そ、そうだね〜……」

 お手伝いさんはホクホクとした満足げな表情。しかし錬金術士は重い食材を持たされてげんなりとしていた。

 お手伝いさんが寝込んでいる間に王国を行ったり来たりしていなかったら、とっくにへばっていただろう。

「余裕があったら錬金の材料も補充しておこうかと思ってたんだけど、ある意味予想通りだったな〜……」
「何か言いました?」
「ん〜ん? 別に」

 欲しいものは特にないと答えていた錬金術士だったが、こうなることを予想してのことだったのだ。これ以上荷物が増えてしまっては、さすがに手が足りない。

「今日はご馳走にしましょう! 先生のお好きなものを用意しますよ」
「ホント?! じゃあじゃあ、あれがいい! クリームシチュー!」
「お安い御用です。任せてください!」
「やった! 早く帰ろ〜!」

 それだけですっかりご機嫌になった錬金術士。
 ひさびさの王国で買い物を楽しんだ二人は、アトリエへと帰る。



 そんな二人の背中を見つめる人影に気付きもせずに。

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