不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

116 「オレ様がルールだ」

 一般常識的にお土産としては微妙なものを購入し、錬金術士行きつけの食堂へとやってきた。

 一見すると年季の感じられる木造の一般家屋のようだが、これまた年季の感じられるくすんだ看板と漂う香りが、ここが食堂であることを示している。

 先頭を歩く錬金術士が扉に手をかけて力を込めるが、扉がガタガタガタと頑なに嫌がって開かない。

「…………ん」
「はいはい……」

 無言で見つめてくるので、察して立ち位置をチェンジ。
 ガタガタガタン!

「やっほ~」
「失礼します」

 ガタガタと建てつけの悪い扉を力技で開け入店する。店内は非常に狭く、通路は一人分。席も肩を寄せ合ってようやく座れるスペースがわずかにあるだけ。
 おまけに他のお客さんの姿もあり、圧迫感に拍車をかけていた。

「へいらっしゃ――って、テメェらか! 随分と久しぶりじゃねぇかよオイ!」

 野太い声で出迎えてくれたのは「親父おやじ」の愛称で親しまれている店主。声の印象に違わぬ肩幅と、丸太のように太く逞しい四肢。見上げるような体躯は狭い店内も相まって圧迫感が半端ないことになっている。

「親父さんおひさ~」
「ご無沙汰してます親父さん」

 狭いので小さく会釈して、カウンター越しに買ってきたお土産を渡す。

「コレは?」
「砥石です。質がいいのを見つけてきました」

 出店で賑わう中から石屋を見つけ、自らの手で選別したもの。
 お土産には似合わぬ〝砥石〟であるが、実は店主には嬉しいものだったりするのだ。

「ほぅ、どれどれ……」

 鋭い眼光で品定めをする店主。鋭すぎて砥石の方が研がれそうなほどだ。

「ま、ギリギリ及第点ってところだな。罰として厨房手伝いやがれ」
「及第点なんじゃ?!」
「ここではオレ様がルールだ。及第点はギリギリアウトなんだよ」
「頑張ってねお手伝いくん」
「他人事だと思って……」

 のんきに応援してくる錬金術士は空いているカウンター席を見つけて腰を下ろした。お手伝いさんはいったんお店から出て裏口から厨房へ回る。

「今は客通りが多くて書き入れ時だからよ、ちょうど猫の手も借りてぇと思ってたとこだったんだ」
「ハハハ……」

 運がいいのか悪いのか、サービスデーで安くなっているとはいえ、その影響で忙しくもなっているようだ。

「オラ、手ェ動かせ。リュウリを0.15にスライス」
「は、はい」

 このような流れでお店の手伝いをさせられたことが過去にも何度かあるので、経験を生かして即座に対応。
 細長い野菜を薄く順調に切っていくのだが、

「ごふぅっ?!」

 突如後頭部に激痛が走る。親父のグーが飛んできていた。

「厚い! もっと薄く! 確実にやりやがれ!」
「そんなこと言われても0.15とか細かくてわからないですって……!」

 涙目になりながらも感覚でさらに薄く切っていく。後頭部がジンジンと痛みを訴えてきた。

「アァ? 0.1と0.2の間だろうが簡単だ。これくらいテメェなら余裕だろ?」
「無茶振りですってば?!」

 それでもなんとか店主の要望に綱渡り状態で答え続け、理不尽な手伝いを強制させられたお手伝いさんだった。

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