不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

115 「サービスデー」

 錬金術士とお手伝いさんがやってきた王国は、賑わいを見せていた。普段から人々の往来で雑多に溢れているが、今日はいつも以上に賑やかだ。

「久しぶりに来ましたけど、今日は何かあるんですかね?」

 ずっとベッドで横になっていたお手伝いさんは王国で行われている行事をあまり知らない。
 よく通うようになっていた錬金術士が教えてくれた。

「今日は国を挙げてのサービスデーだよ~!」
「な、なんですかその甘美な響きは?!」

 錬金術士からの思わぬ情報で驚きを隠せないお手伝いさん。勢い余って唾を飛ばしてしまったほどだ。

「ふっふふん♪ お手伝い君こーゆーの好きでしょ? たまたまだけど、日程かぶってよかったね~」
「ホント感謝です王様! っていうか先生、知ってたんなら教えてくださいよ! 買い物リスト急いで更新しないと……」

 大わらわで脳内のメモを書き換えていくお手伝いさん。
 そんな彼の様子を嬉しそうにニコニコと笑いながら見つめる錬金術士。

「……なんですか?」

 それに気付いてどうしたのかと尋ねるお手伝いさんだったが、

「ん~ん? な~んでも?」

 と言って3歩ほど先を歩いていってしまう。

「先生? どこ行くんですか?」
「食堂だよ~? まずはご飯食べないとね~」

 まだ朝食を食べていない二人。今回は買い物が主な目的だが、腹が減っては戦はできぬ。
 腹ごしらえをしてからが、本番だ。

「いつものところですか?」
「もっちろん♪」

 錬金術士行きつけの食堂がすぐ近くにある。行きつけと言っても、お手伝いさんがアトリエにやってきてからはすっかり疎遠になっていたが、いい機会だ。挨拶も兼ねてご相伴にあずかろうという魂胆だ。

「親父さん元気ですかね?」
「お師匠さんとは別の意味で衰えを知らない人だから元気だよ」
「手ぶらで伺ったらゲンコツ飛んできそうなんで、道すがらお土産を買っていきましょうか」
「……そうだね~」

 珍しく苦い表情を浮かべる錬金術士。彼の言葉で過去の記憶が蘇ってくる。

 相手が女子供でも容赦なく飛んでくるゴツい拳。もちろん相手を選んで加減はしてくれるが、失礼があると痛い思いをする。

 錬金術士は知らず知らず、コツンとやられた額のあたりとスリスリとしていた。

「じゃ、心の準備をして、いきましょうか」
「だね~」

 なんだかんだ言って、いつも痛い思いを肩代わりしているのはお手伝いさんなので、彼女は気楽なものだった。

 対するお手伝いさんは少々気が進まないが――否応なく足は進むのだった。

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