不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

111 「きぎょうひみつ、ですっ!」

「郵便ちゃん、紅茶のお代わりとかいる〜?」
「いただきますっ」

 笑顔で答える郵便ちゃんのウサミミが揺れる。

 ——私にとっての錬金術は〝裏切り〟なんだ。

 口が滑って余計なことを言ってしまった。
 しかし郵便ちゃんは少し戸惑いはしたものの、深く気にせず接してくれている。

 ありがたいと思いつつ、錬金術士は紅茶のお代わりを用意。

「そういえば〜」

 手を動かしつつ錬金術士は口を開いた。

「お師匠さんからの伝言の件だけど、もしかして郵便ちゃんってお師匠さんのアトリエまで行ってるの〜?」
「そうですよっ?」

 椅子に座ると床に足のつかない郵便ちゃんは、ぷらぷらと足を揺らしながら、さも当然とばかりに答える。

 お手伝いさんといぬねこと三人で行った時はアクシデントなんかもありつつ、とにかく大変だったのに、この少女は平然とあの危険な山を行き来していると言う。

 確かに配達員という仕事は錬金術士には無理そうだ。それどころかお手伝いさんにさえ難しいだろう。

「先輩にコツを教えてもらったのですっ!」
「コツ? ってなあに?」

 新しく注いだカップを郵便ちゃんの目の前に置いて、自分も向かいの席に座る。

 師匠のアトリエへはしばらくは行かないだろうが、いつかまた行く日がやってくるだろう。その時のためにも、是非ともその「コツ」とやらを聞き出しておきたい。

 そうすれば次回はもっと楽に行けるはず。

 聞かれた郵便ちゃんは、ムフフーと子供らしい笑みを浮かべて、言おうか言わないかしばしの間悩んでから、

「ないしょですっ!」

 可愛らしく言って、淹れたての紅茶を一口飲んでほっと息をつく。
 湯気で湿気た前髪がくるりとしていて、一層微笑ましい。

「ずるいよ〜! 私にも教えてよ〜! ねぇえ〜」
「ダメですっ! きぎょうひみつ、ですっ!」

 郵便ちゃんの小さい肩をゆっさゆっさと揺さぶっておねだりする錬金術士。

 郵便ちゃんも中々に強情で、口を割ろうとはしなかった。

 果たしてどっちが年上なのか分からない二人のやりとりだった。

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