不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

110 「私にとっての錬金術」

「逆にお聞きしたいんですけどっ」

 暖かな紅茶で喉を潤してから、郵便ちゃんは口を開く。

「なになに〜? なんでも答えちゃうよ〜!」
「『れんきんじゅつ』ってなんですっ? わたしよく分からないまま関わってると思うんですっ。わたしだけじゃなくて、世の中の人みんなっ」
「……ん〜」

 なんでも答えると言った手前、引き下がれない錬金術士。はてさてなんと答えたものか。郵便ちゃんの純粋な瞳に宿る期待には是非とも応えたいところだが、難しい質問だった。

 世界に錬金術士は片手で数えられるほどしか存在していない。目の前にいるふわふわ好きな錬金術士もそのうちの一人。アトリエが王国から近いからか依頼をする人は多いが、ほとんどの人が錬金術の実態を知らないまま、ただ便利に利用している。

 郵便ちゃんは答えを探す錬金術士を見て、続ける。

「すごく便利な技術だと思うんですが、だったらどうしてみんなお手伝いさんのように学んでみようとしないんでしょうかっ?」

 疑問に揺れるウサミミ。
 この質問になら、簡単に答えられる。

「学ぼうとする人が少ないのは、単純に失敗には危険が伴うからだよ〜。下手したら死んじゃうくらい危険なの」
「死んじゃうんですかっ?!」

 にこにこ笑顔で言うものだから軽い冗談のつもりで聞き流そうとした少女だが、言われて思い返してみれば、配達に訪れた際、妙に焦げ臭かったり窓ガラスが全て吹き飛んだりしていた時もあった。

 努めて気にしないようにしていた郵便ちゃんだが、事実を知って驚愕とする。

 錬金術とはなるほど確かに、素人が手を出すにはいささか危険が過ぎる代物らしい。

「最初の質問だけど、やっぱり難しいね〜。錬金術って人それぞれにやり方や考え方があるから〝これこれが錬金術だよ〟とは一概には言えなくて〜」

 困った笑顔を浮かべる錬金術士。
 不躾ぶしつけな質問だったかな、と海より深く反省しようとした時、錬金術士は「でも」と二の句を継ぐ。

「私にとっての錬金術は〝裏切り〟なんだ」

 静かに響く錬金術士の声。
 その顔は見たことのない、思い詰めたような真剣な表情だった。

「う、うらぎり……ですかっ?」

 彼女には似合わない表情と言葉を同時に見せつけられて戸惑う。

 錬金術士にとって錬金術とは裏切り。
 一体どういう意味だろうか。

「ごめんごめん、余計なこと言っちゃったかな〜。気にしないでね〜」

 いつものゆるい笑顔を取り戻して、ほんわかした空間が帰ってくる。

 とにかく錬金術とは奥が深くて素人にはてんで理解できないということが、理解できた郵便ちゃんだった。

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