不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

109 「無理だと思いますっ!」

 慣れない手つきながらも、錬金術士は紅茶を二人分用意する。正確には長いこと自分で淹れていなかったので、思い出しながらの用意だ。

 体に染み付いていたはずの一連の流れも、半年近くも離れていては薄れていた。
 しかしお手伝いさんのクッキーはどうしても紅茶で頂きたかった錬金術士。どうにかこうにか用意して、満足げな表情。

「おまたせ〜! 久しぶりに淹れたからあんまりアレかもだけど、どうぞ〜」
「ありがとうございますっ! いただきますっ!」

 元気よく頭を下げてウサミミを激しく振り回す郵便ちゃん。

 淹れたのは久しぶりだと謙遜しているが、漂ってくる芳醇な香りがアトリエを満たし、鼻腔をくすぐる。お手伝いさんが淹れてくれるやり方を見よう見まねで試した結果、うまくいった。

 甘党である錬金術士は早速砂糖を多めに投入し、同じく甘党でありながらもしっかり者の郵便ちゃんはそのままでまず一口。

「我ながらまずまずの出来……かな〜?」

 頷きつつも首を傾げ、自分で淹れた紅茶とお手伝いさんが淹れた紅茶を脳内で飲み比べる。不味くはない。美味しいが、何かが足りないような気がした。

「充分おいしいですよっ! クッキーいただいても?」
「どうぞ〜」
「ではっ」

 二人同時にクッキーを口へ放り込み、咀嚼するたびにうっとりとした表情へと変わっていく。喉からは声にならない声が上がり、落ちそうになる頬を二人して押さえた。

「「幸せ〜……」」

 錬金術士が飛んで喜びそうな奇跡のシンクロ発言も、舌の上でとろけるクッキーのように溶けていく。

 しばしの間、至福の時間を堪能してから錬金術士は頃合いを見計らって話しかける。
 こういった機会がないと、郵便ちゃんとは話せない。どんどん話しかけなくては。

「最近お仕事頑張ってるみたいだけど、郵便配達って実際はどんな感じなの〜?」

 いつもほぼ決まった時間に配達される郵便物。アトリエの場合はそのほとんどが依頼書なわけだが、郵便物の中には紙ではなく物も含まれており、以前のお皿の修復などが良い例だ。
 あの壊れたお皿も、依頼書と一緒に郵便ちゃんが持ってきたものになる。

「担当する区域がそれぞれ決まっていまして、みんなで手分けして一斉に配達するんですよっ」

 普通は王国内だけの配達が主な仕事なのだが、王国の外に飛び出して配達をするのは珍しいと言える。

 比較的安全な土地ではあるが、全く危険がないわけでもない。夜はオオカミだって出るし、お手伝いさんのように怪鳥に攫われてしまうかもしれない。

「ちなみに担当する区域って……どれくらいの広さなの〜?」
「広さで言うならバラバラですねっ。狭ければそれだけ家が多くて密集してますし、広ければ配達物が少ない代わりにたくさん移動する必要がありますのでっ。わたしの場合は後者ですねっ、非力ですけど体力と足の速さを認められましてっ」

 砂埃が立ち上るほど猛スピードで走れる郵便ちゃんに、大量の郵便物は無理というものだろう。身軽な少女だからこそ出来る仕事だ。

「ほうほう〜。それって私でも出来る?」
「無理だと思いますっ! 体力勝負ですからっ」

 子供らしく、迷いなくズバッと切り捨てる郵便ちゃん。
 それすらも嬉しさに変換して悶える錬金術士だった。

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