不老少女とふわふわたあめ
106 「どうぞっお手紙ですっ!」
寒風吹き荒ぶ高山の頂上付近。
伝説の錬金術士の師匠が住まうアトリエに、小さな影が訪れた。
「こんにちわーっ! 郵便でーすっ!」
白金色のショートヘアに大きなウサミミを付けた少女がノックの音とともに声を張り上げる。
郵便ちゃんの愛称で親しまれている、配達員のチナだ。
「おーチビ助、よく来たな」
ほどなくして現れたのは露出の多い魔女風の格好をした女性。彼女が伝説の錬金術士を育て上げた師匠その人。
誰もが羨む抜群のプロポーションを誇っているが言葉遣いも粗雑で、だらしなく首筋を掻きむしるという態度で全てが台無し。
しかし郵便ちゃんは気にした風もなく、仕事を進める。
「どうぞっお手紙ですっ!」
跳ねるような元気のある喋りに満点の営業スマイルを添えて、肩掛けカバンから一枚の手紙を取り出して手渡す。
「手紙だァ? んだよ、おもしれーモン作るような依頼じゃねーのかよ」
師匠は文句をこぼしながら、少女から受け取った手紙を差出人も確認せず開封しその場で目を通す。
「んだ、弟子からじゃねーか。…………そうかあのクソ野郎やっと目覚めやがったか。――これでアタシもやっと動き出せるってもんだ」
「えと、錬金術士さんのお手伝いさんですよねっ? なんか大変なことがあったそうなっ」
仕事柄、毎日のように錬金術士のアトリエに伺う郵便ちゃんは、詳しい事情を知らないまでもお手伝いさんの状態は把握していた。
目が覚めたはいいもののまだ元のような生活は送れないことなど、いつもの調子で不安を見せない錬金術士だが、内心では何かに縋りたい寂しさのようなものを感じさせていた。
「『大変』なんてもんじゃなかったが……一段落ではあるようだな」
思うところがあるのか、師匠は空を見上げて思いを馳せる。その言葉には妙な実感がこもっていた。
「そうですかっ! では、わたしはこれでっ!」
お客の事情には踏み込まないのが鉄則として教えられているため、深く聞くようなことはない。
最後の配達を済ませた郵便ちゃんは踵を返して走り出そうとしたとき、
「ちょい待ち」
「うぐっ!?」
肩掛け鞄を掴まれて変な声が出てしまった。大切な商売道具なので手荒く扱うことに文句を言ってやりたいが、それ以上にお客は大切。
まだまだ子供だが、子供なりに大人への憧れがある。
「な、なんですか……っ?!」
声が震えつつも堪えに堪え、振り返る。
子供ながら商魂たくましく、脱帽する思いだ。
「手紙送り返すよりもチビ助に言伝頼んだ方が早そうだ。頼めるか?」
「……別にいいですよっ、帰り道ですしっ」
「うし。……その前に一つだけ聞いていーか?」
「なんですっ?」
純粋な疑問にウサミミを揺らす郵便ちゃん。
「ずっと思ってたんだが……チビ助はどうやっていつもここまで来てんだ? アタシも知らねー裏道でもあんのか?」
「それは――企業秘密ですっ!」
ちょっとした意趣返しとして、いたずらに笑ってみせた郵便ちゃんだった。
伝説の錬金術士の師匠が住まうアトリエに、小さな影が訪れた。
「こんにちわーっ! 郵便でーすっ!」
白金色のショートヘアに大きなウサミミを付けた少女がノックの音とともに声を張り上げる。
郵便ちゃんの愛称で親しまれている、配達員のチナだ。
「おーチビ助、よく来たな」
ほどなくして現れたのは露出の多い魔女風の格好をした女性。彼女が伝説の錬金術士を育て上げた師匠その人。
誰もが羨む抜群のプロポーションを誇っているが言葉遣いも粗雑で、だらしなく首筋を掻きむしるという態度で全てが台無し。
しかし郵便ちゃんは気にした風もなく、仕事を進める。
「どうぞっお手紙ですっ!」
跳ねるような元気のある喋りに満点の営業スマイルを添えて、肩掛けカバンから一枚の手紙を取り出して手渡す。
「手紙だァ? んだよ、おもしれーモン作るような依頼じゃねーのかよ」
師匠は文句をこぼしながら、少女から受け取った手紙を差出人も確認せず開封しその場で目を通す。
「んだ、弟子からじゃねーか。…………そうかあのクソ野郎やっと目覚めやがったか。――これでアタシもやっと動き出せるってもんだ」
「えと、錬金術士さんのお手伝いさんですよねっ? なんか大変なことがあったそうなっ」
仕事柄、毎日のように錬金術士のアトリエに伺う郵便ちゃんは、詳しい事情を知らないまでもお手伝いさんの状態は把握していた。
目が覚めたはいいもののまだ元のような生活は送れないことなど、いつもの調子で不安を見せない錬金術士だが、内心では何かに縋りたい寂しさのようなものを感じさせていた。
「『大変』なんてもんじゃなかったが……一段落ではあるようだな」
思うところがあるのか、師匠は空を見上げて思いを馳せる。その言葉には妙な実感がこもっていた。
「そうですかっ! では、わたしはこれでっ!」
お客の事情には踏み込まないのが鉄則として教えられているため、深く聞くようなことはない。
最後の配達を済ませた郵便ちゃんは踵を返して走り出そうとしたとき、
「ちょい待ち」
「うぐっ!?」
肩掛け鞄を掴まれて変な声が出てしまった。大切な商売道具なので手荒く扱うことに文句を言ってやりたいが、それ以上にお客は大切。
まだまだ子供だが、子供なりに大人への憧れがある。
「な、なんですか……っ?!」
声が震えつつも堪えに堪え、振り返る。
子供ながら商魂たくましく、脱帽する思いだ。
「手紙送り返すよりもチビ助に言伝頼んだ方が早そうだ。頼めるか?」
「……別にいいですよっ、帰り道ですしっ」
「うし。……その前に一つだけ聞いていーか?」
「なんですっ?」
純粋な疑問にウサミミを揺らす郵便ちゃん。
「ずっと思ってたんだが……チビ助はどうやっていつもここまで来てんだ? アタシも知らねー裏道でもあんのか?」
「それは――企業秘密ですっ!」
ちょっとした意趣返しとして、いたずらに笑ってみせた郵便ちゃんだった。
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