不老少女とふわふわたあめ
104 「とっても……刺激的でふ」
身体中がギシギシと軋むように痛む。
地道なリハビリを続けてなんとか出歩いたりは出来るようになったものの、なかなか完治とまではいかなかった。
「思ってた以上にツライな、これ……」
ベッドの上で身を起こして、お手伝いさんは辛苦の滲むつぶやきをこぼす。
満足に日常生活が送れず、錬金術士に手を借りてばかり。お手伝いするはずが、お手伝いされる側になるとは。
「文句言ってないで食べるの! はいア〜ン」
ベッドに腰掛けている錬金術士の手から銀のスプーンが口元へ伸びてくる。上には変わらず成長の感じられない暗黒物質がその存在感を禍々しく放っていた。
彼の体の中で一番ダメージを負っている部位は手。
右手はギプスでガッチリと固定されていて、残る左手もどういうわけかまともに動かせない。
師匠から譲り受けた手袋を使用した時、疲れて握力が無くなるかと思ったが、それよりも症状は明らかに深刻だった。
「あ、あーん……」
体が動かせなくて辛いのと、仕事があって忙しいはずの錬金術士の手を煩わせていることへの引け目。
加えて彼女が作る殺人的料理を毎食。
足を引っ張っている自覚があるからこそ早く治したいのに、焦れば焦るほど停滞の兆しを見せる。
「どおかな〜?」
「とっても……刺激的でふ」
味の方も変わらず、ズバ抜けた不味さだった。
舌がヒリヒリとして、内頬が弾けるような感覚に襲われる。飲み下せば多少はマシになるかと思いきや、胃の中でも暴れまわっているのが分かるようだ。
暴れ狂う魚をそのまま丸呑みしたような錯覚さえ感じる。
オブラートで包まれまくったお手伝いさんの感想を聞いて、錬金術士はニッコリと笑みを浮かべる。
この笑顔が無かったら、早々にこの生活とはおさらばしていただろう。
「先生、仕事の方はどうでふか? 順調でふか?」
「ボチボチでんな〜」
「どこの言葉でふか……」
誤魔化すということは、上手くいっていないのか、またぞろサボっているのか。
考えられる可能性は多くない。
そもそも師匠のアトリエを訪ねたのは、王様から武器の大量生産をしてくれという依頼を果たすため。そのためには不慣れな武器の錬金を克服する必要があったから、修行をしに行ったのだ。
まだその成果を、この目で見ていない。
(やっぱり僕がこんなことになったから、中断せざるを得なかったのかな)
動けなくなるような大怪我さえ負わなければ、ここまで迷惑をかけることも無かった。
口の中にいつまでも残る暗黒物質を気合だけで飲み込んで。
「もう大丈夫です。先生は仕事に戻ってください」
「え〜? でもまだこんなに残ってるよ〜?」
錬金術士の手元には、暗黒物質の塊が皿に乗っている。全部食べさせる気だろうが、日々の食事で強化されてきた彼の胃袋を持ってしても辛いものがある。
「あとでゆっくりいただきます。左手は動くんで」
無理に左手を動かして笑ってみせる。
「……分かった。いぬねこちゃん、お手伝い君の様子見ててね〜」
「承知した」
錬金術士は渋々席を立ち、寝室を出て行った。仕事をするため練金釜の前に立ちに行ったはず。
部屋にはいぬねこと二人。
力を込めてもまともに動かせず震える左手。スプーンをただ握ることもできないが、持てないこともない。
「あの子がいないのであれば無理して食べる必要はない。口裏は合わせよう」
気を使ってくれるいぬねこだが、それは出来ない。
「ありがとうございます。でも食べます。先生には、嘘なんかつきたくないし、笑っていて欲しいから」
それからお手伝いさんは何度もスプーンを落としながら、完食した。
いぬねこは彼の覚悟を汲んで、ただ見守るだけに徹するのだった。
地道なリハビリを続けてなんとか出歩いたりは出来るようになったものの、なかなか完治とまではいかなかった。
「思ってた以上にツライな、これ……」
ベッドの上で身を起こして、お手伝いさんは辛苦の滲むつぶやきをこぼす。
満足に日常生活が送れず、錬金術士に手を借りてばかり。お手伝いするはずが、お手伝いされる側になるとは。
「文句言ってないで食べるの! はいア〜ン」
ベッドに腰掛けている錬金術士の手から銀のスプーンが口元へ伸びてくる。上には変わらず成長の感じられない暗黒物質がその存在感を禍々しく放っていた。
彼の体の中で一番ダメージを負っている部位は手。
右手はギプスでガッチリと固定されていて、残る左手もどういうわけかまともに動かせない。
師匠から譲り受けた手袋を使用した時、疲れて握力が無くなるかと思ったが、それよりも症状は明らかに深刻だった。
「あ、あーん……」
体が動かせなくて辛いのと、仕事があって忙しいはずの錬金術士の手を煩わせていることへの引け目。
加えて彼女が作る殺人的料理を毎食。
足を引っ張っている自覚があるからこそ早く治したいのに、焦れば焦るほど停滞の兆しを見せる。
「どおかな〜?」
「とっても……刺激的でふ」
味の方も変わらず、ズバ抜けた不味さだった。
舌がヒリヒリとして、内頬が弾けるような感覚に襲われる。飲み下せば多少はマシになるかと思いきや、胃の中でも暴れまわっているのが分かるようだ。
暴れ狂う魚をそのまま丸呑みしたような錯覚さえ感じる。
オブラートで包まれまくったお手伝いさんの感想を聞いて、錬金術士はニッコリと笑みを浮かべる。
この笑顔が無かったら、早々にこの生活とはおさらばしていただろう。
「先生、仕事の方はどうでふか? 順調でふか?」
「ボチボチでんな〜」
「どこの言葉でふか……」
誤魔化すということは、上手くいっていないのか、またぞろサボっているのか。
考えられる可能性は多くない。
そもそも師匠のアトリエを訪ねたのは、王様から武器の大量生産をしてくれという依頼を果たすため。そのためには不慣れな武器の錬金を克服する必要があったから、修行をしに行ったのだ。
まだその成果を、この目で見ていない。
(やっぱり僕がこんなことになったから、中断せざるを得なかったのかな)
動けなくなるような大怪我さえ負わなければ、ここまで迷惑をかけることも無かった。
口の中にいつまでも残る暗黒物質を気合だけで飲み込んで。
「もう大丈夫です。先生は仕事に戻ってください」
「え〜? でもまだこんなに残ってるよ〜?」
錬金術士の手元には、暗黒物質の塊が皿に乗っている。全部食べさせる気だろうが、日々の食事で強化されてきた彼の胃袋を持ってしても辛いものがある。
「あとでゆっくりいただきます。左手は動くんで」
無理に左手を動かして笑ってみせる。
「……分かった。いぬねこちゃん、お手伝い君の様子見ててね〜」
「承知した」
錬金術士は渋々席を立ち、寝室を出て行った。仕事をするため練金釜の前に立ちに行ったはず。
部屋にはいぬねこと二人。
力を込めてもまともに動かせず震える左手。スプーンをただ握ることもできないが、持てないこともない。
「あの子がいないのであれば無理して食べる必要はない。口裏は合わせよう」
気を使ってくれるいぬねこだが、それは出来ない。
「ありがとうございます。でも食べます。先生には、嘘なんかつきたくないし、笑っていて欲しいから」
それからお手伝いさんは何度もスプーンを落としながら、完食した。
いぬねこは彼の覚悟を汲んで、ただ見守るだけに徹するのだった。
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