不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

特別編20 「ひな祭り。二年目」

「よーしお手伝い君! 今年こそは間に合わせたよ! えらいでしょ〜!」
「ええそうですね……えらいですね……」

 子供のようにはしゃぐ錬金術士。対するお手伝いさんはグッタリと言うか、ガックリと言うか。
 とにかく肩を落としていた。

 願わくば、そのまま過ぎ去って欲しかった。

 そう、何を隠そう本日は「ひな祭り」。彼女が言うには、女の子のためのお祭り。

 去年は仕事が立て込んで遅めのひな祭りになったが、今年はしっかりと覚えていたようで、仕事に取り組む姿勢が違った。

 毎日その調子で頑張ってくれれば、仕事が溜まったりしないのに。

 何度口を酸っぱくして言っても、サボり癖ばかりは治らない。

「じゃんじゃじゃ〜ん! 依頼のついでに、アトリエ用で余計に作ってみました〜!」

 両手を広げて床に散らばったあれやそれを誇らしげに眺める。

 無造作に転がっているが、どれもこれも立派な雛人形だ。

 内裏雛だいりびなに三人官女に五人囃子。一体一体が精巧に作られていて、優美な着物も目に鮮やかだ。

「先生……縁起物なんですから、せめてもっと大切に扱いましょうよ」
「私が作ったんだから、だいじょうぶ!」
「そういう問題なんですかね……?」

 相変わらずの自己中心的な思考に呆れつつ、お手伝いさんは早々に諦めた。
 唐突な行動を受け入れて順応していかなければ。そうでもしないとこのアトリエでは過ごしていけない。

「いぬねこちゃん、僕はひな祭りのことよく知らないので、手伝ってもらっていいですか?」
「承知した。小生に任せたまえ」

 犬にも猫にも見えるいぬねこが自信たっぷりと、誇らしげに胸を張る。
 こういう時は、いぬねこの博識が役に立つ。

「では、小生の指示通りに人形を並べてほしいのだが……その前に、人形を飾る〝ひな壇〟はどうしたのかな?」
「あ……」

 小さく口を開ける錬金術士に、お手伝いさんは天を仰ぐのだった。


   ***


 いつものアトリエの一角に、立派なひな壇が出来上がった。

 お手伝いさんの持ち前の器用さを存分に発揮して、倉庫に残っていた端材で即席ひな壇を見事に作り上げてみせた。

「相変わらず、君の手際には感銘を覚えるね」
「それはどうも……」

 錬金術士が、「今日中に仕上げろ」と後ろから手伝いもしないのに口ばかり挟むものだから、とにかく急ピッチでの作業となった。

 個人的にはまぁまぁの出来栄え。
 もっと時間といい材料があれば、さらに立派な物も作れたなとさえ思う。

 二人と一匹はしばしの間、完成したひな壇を満足げに眺める。

 ふと、いぬねこが呟きをこぼす。

「ところで二人は、こんな伝説ジンクスがあるのを知っているかな?」
「な〜に?」
「なんですか?」

 いつもの長いお喋りが始まったかとお手伝いさんは思う。

 しかしいぬねこが紡ぐ次の言葉で、彼の努力が一瞬にして水泡と帰す。

「雛人形の片付けが遅いと、結婚出来ないそうだよ」
「よしっ、片付けるよお手伝い君!」
「はぁ!?」
「ほら早く!」

 言うが早く、錬金術士は乱暴に人形を片付け始める。

 お手伝いさんは本日二度目の、天を仰いだのだった。

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