不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

098 「素晴らしい物と言いやがれ」

 師匠の腹を貫いた一撃目の時は電気を流していなかったから布ごと突き破ることが出来た。
 もし全く同じ箇所に同じ攻撃をしてきていたら、すでに穴が空いているため防げなかっただろう。

 しかし普通の人間を相手取っている感覚が抜け切らないままに攻撃を繰り出したがために、必殺の心臓を狙い、そして失敗した。

「これでこの布の性能が実証できた。せっかくだから命名してやるか。つってもアタシのセンスはゼロだかんな……適当に『電硬布でんこうふ』とでも仮付けしておくか」

 便宜上で名付けられた「電硬布」をしっかりと身に纏い、いつでも硬化出来るように心構えと準備だけは怠らない。

 結局は刹那の時を見極めるタイミングがものを言う。
 先ほどはあらかじめ硬化しておいたが、ずっとそのままというわけにもいかないからだ。

「やっかいな物を作ってくれますね貴方は……」

 ありとあらゆる方向へ複雑に折れ曲がった指を、一本づつ無理やり元の位置へと戻していくヴィオ。

 師匠と違ってそれで治るわけはないが、あらぬ方向へ曲がっている自分の指を見ていると気持ち悪くなってくる。

 一通り戻し終えるが、ひどく不格好でまともに動く指は一本もない。片手は完全に使い物にならなくなっていた。

「やっかいな物とは失礼だな。おかげでこっちは痛い思いせずに済んだんだ、『素晴らしい物』と言いやがれ」

 自分の片手をダメにしたアイテムを「素晴らしい物」と評価するのは複雑だろう。

 確かに量産出来たら便利なのにと思いもしたが、こんな仕打ちを受けてはむしろ滅びてしまえと文句を言いたくなる。

「少し油断はしましたが……片手が無事ならどうとでも出来ます」
「言ってくれるじゃねーか。アタシの相手は片手で務まるのかい」

 これまでの仕事で培ってきた経験から、ヴィオは身を引き締めてかかる。

 相手はあの師匠。

 不死身という特性以上に怖いのは、谷間に隠された数々のアイテム。
 一見なんてこともないただの笛ですら、使い方次第で驚異と化したのだから油断はできない。

 戦闘技術がずば抜けていることもまた事実。彼女が作ったアイテムと身体能力が噛み合ったら手がつけられなくなる可能性だってある。

「少し前の言葉、いまのうちに訂正しておきましょう」
「アン?」
「やっぱり喰うか喰われるかの緊張感はゾクゾクしますよ……!」
「ハハッ! いいねぇ、前のテメーより今のテメーの方がアタシとは合いそうだ!」

 二人は楽しそうに笑いあう。
 それでも、この二人が衝突する運命には抗えない。

 錬金術士を殺すため、かたや錬金術士を生かすため。

 両者の信念が、静かにぶつかり合う。


 近寄り難き死闘に少しずつ、その錬金術士が接近していることを、この時の二人はまだ知らない。

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