不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

013 「変わるもの。変わらないもの」

「わたがめは、わたがめの年齢が分からないくらい長く生きているよ」

 開口一番、わたがめはそんな事を言った。

「世の中には変わっていくものと変わっていかなくもないものがある。わたがめは、君にそれが何か分かるかと聞くよ?」
「ややこしいけど一緒ですよそれ」

 それからその独特の喋り方もややこしい。

「わたがめとした事が……しっぱいしっぱい」

 舌を出して〝テヘッ〟みたいに言ってる。可愛くない。
 でも錬金術士は「きゃーわいいぃ!!」とか言いながら鼻血出して抱きしめそう。
 そう、どうしてだか分からないが、錬金術士はわたがめの事が大好きなのだった。
 こんなよく分からない生物のどこに惹かれたのか、理解に苦しむお手伝いさん。

「変わっていくものと、変わっていかないものがある。わたがめはそれが何か聞き直すよ?」

 言われてお手伝いさんは考える。
 変わっていくものと、変わっていかないもの?
 何だろう。
 変わるものと、変わらないもの?
 どうだろう。
 変えられるものと、変えられないもの?

「うーん……」

 お手伝いさんは考えた。いや、考えさせられていた。
 わたがめの言葉には、まるで不思議な力が宿っているかのような強制力や説得力がある。なかば無理矢理に考えさせられている訳だ。
 しかし考えさせられているという自覚はあった。
 だからこそ、この面倒な相手と話をするコツが掴めたのだ。
 お手伝いさんが掴んだコツとは、流れに任せるという単純明快なもの。

「世の中……とか?」

 流れに任せた結果、こんな答えが浮かんだ。

「うん。良い答えだよ」

 正解ではないらしい。

「だけど、世の中は変わるよ。人の手が加わって変わる。加わらなくても変わる。まるで森のようにね」

 人の手によって森は伐採され姿を変える。人の手が加わらなくても成長、あるいは枯れて刻一刻と姿を変える。

「じゃあ答えは何なんですか?」
「わたがめは、知りたいのかいと聞くよ?」
「それは、まぁ」

 ここまで言われて気にならないと言ったら嘘になる。

「変わっていくものと変わっていかないもの。それは――」

 お手伝いさんはわたがめの言葉に耳を傾けた。傾けていた。

「――恋愛だよ」

 恋愛。
 というと、男女が落ちると言われている――あれ。

「昔からこの感情はちっとも変わらないよ。でも恋から愛へと変わっていく」

 なるほどと、お手伝いさんは納得していた。
 恋も愛も恋愛。
 恋と愛は違うけど、どちらも恋愛という感情には違いない。
 違うけど違わない。
 変わっていくけど変わっていかない。

「上手くいくと良いね?」
「ほっといてください」

 わたがめの余計な一言をあしらって、この話題は終わった。

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