不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

014 「執念」

「うん、次の話題に移ろうと思ったんだけど、ここまでみたいだよ」
「みたいだよ?」

 変な言い回しをする。まるでこれから起きる事が分かっているかのよう。
 まだ全然話してないのに、これくらいでいいのだろうか。

「おてーつだーいくーん!」

 その時、家の中から錬金術士がリズミカルに言って出て来た。妙にルンルン気分みたいだ。いつにも増して楽しそうな声音である。

「もう入ってきてもいいよー。あ! わたがめ様だー!」

 速攻でわたがめの存在に気付き、これまた速攻でわたがめに駆け寄る。

「わたがめは捕まる前に行くよ。頑張ってね」

 お手伝いさんに少し早口でそう言い残すと、川の流れに乗って意外なスピードで遠ざかっていく。

「うわーん! もふもふしたかったのにー!」

 一足遅かった錬金術士は悔しそうに地団駄を踏んだ。

「私がわたがめ様好きだって事知ってるでしょ! 捕まえといてよお手伝い君!」
「すみません……」
「すみませんで済んだら警察はいらないのよ!」
「警察沙汰だったの⁈」
「あのふわふわもふもふは罪だよ……」

 その執念がむしろ罪になりそうで怖い。
 錬金術士がわたがめを好きな事を知っているからこそ、わたがめを捕まえておく事は出来なかった。
 一度もふもふしだしたらいつ終わるか分かったもんじゃないし、ただでさえ仕事が残っているのだ。
 王様からの依頼もあるし、そんな事に時間を使っている暇は無い。

「次見つけたら捕まえといてよね!」
「善処しますよ」

 そのつもりはない時の、前向きに聞こえる返事で返す。

「じゃ、日も傾いてきたし、部屋に戻ろ?」
「そうですね」

 錬金術士の言葉に頷き、ついて行く。

〝上手くいくと良いね〟

 脳裏に浮かび上がってきたわたがめの言葉を振り払いながら。

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