不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

019 「パンドラの箱」

 錬金術士が取り出したカゴは新品同様のように見事な物だったが、隙間から明らかに異質な色をした靄があふれてきていた。
 触れたら状態異常【毒】よりも上にある【猛毒】からさらに斜め上の【呪い】にでもなってしまいそうなほどの禍々しい雰囲気を感じざるを得ない。

「それ、中に何が入ってるんですか……?」

 恐る恐る聞いた。

「何って、ピクニックと言えばサンドイッチとか、おにぎりとかでしょー?」
「毒々しい靄を発するサンドイッチとおにぎりなんか聞いた事ないですよ⁈」

 どうやら中身についてはお手伝いさんの見立て通りのようだ。
 しかしサンドイッチやおにぎりからあんな靄が出るなんて普通じゃない。どうしてもこの世の物ではない何かが入っているとしか思えなかった。

「ふっふ……。潔く死ぬ覚悟をしておいた方が良いかも知れないよ、君」

 いぬねこは自らの危機を察したのだろうか、いつの間にか目覚めていて、距離を取りつつお手伝いさんにそんな事を言い放った。
 無責任にも程がある。

「仕込みは昨日のうちに済ませておいたからきっと美味しいよー!」
「何を仕込んだんですか! 何を‼」
「どーぞ召し上がれー!」
「待っ」

 カパァ——。
 とその時だけ妙にスローモーションに見えた錬金術士の手を見て、すかさずお手伝いさんが止めようとしたが間に合わなかった。
 スローに見えたにも関わらず間に合わなかった!
 もしかして昨日、家に入れてもらえなかったのはこれを仕込んでいたからと言うのか? 何をどう仕込んだのかサッパリ意味不明だが、当たらずとも遠からずと言ったところだろうか。
 そのカゴの中身は、とても形容しがたい惨状となっていた。というか形容したくない惨状となっていた。
〝惨状〟の時点で、中身がおにぎりの限りではなくなっている事を察して頂きたいと思う。

「なんじゃこりゃー!」
「何って……これはおにぎりだよー。お手伝い君何言ってるのー?」
「こっちのセリフですよ!」

 お手伝いさんが見たのはおにぎりなんかじゃない。もっと別の何かだ。

「もう一度聞きますよ先生……。この中身は何ですか?」
「え? 梅干しだよー?」
「おにぎりの中身じゃないーよ! カゴの中身だーよ! 分かってよーう!」

 もう何が何だか分からなくなってきたお手伝いさんは口調まで分からなくなっていた。
 開けてはいけない物を開けてしまった。
 それだけは、ハッキリと分かった。

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