不老少女とふわふわたあめ
022 「至福の時」
両頬に鈍い痛みが走る。
真っ暗な視界が明るくなるが焦点が合わずにボケて映る。
「うぅっ……」
漏れた息から勝手にうめき声のような音が出てしまう。
そこで両頬の鈍い痛みが、段々と鋭い痛みに変わってきた。
「いてて……」
「お手伝い君! 良かったー……目が覚めて」
ピントの合わないボケたシルエットがお手伝いさんの顔をのぞいている。
段々と視界がハッキリとしてきて、鮮やかな青空にぷかぷかと浮かぶ雲はまるで錬金術士の髪の毛のようで……。
いや、この鼻先をくすぐるような感じは間違いなく錬金術士の髪の毛!
お手伝いさんを覗き込んでいたのは紛れもなく錬金術士だった。これまでの事のあらましを徐々に取り戻して、どうしてこんな事になっているのかという考えに辿り着く。
錬金術士が作ったおにぎりという名の最終兵器を口にした結果、意識が飛んでぶっ倒れた。
そして目が覚めたら……。
膝枕をされていた。
足を投げ出した状態の太ももに、お手伝いさんの頭が乗っかっている。
「えっと……?」
まだ目覚めたばかりのお手伝いさんは頭がうまく働かず、しばらくポカーンとした表情を浮かべていたが、覗き込む錬金術士の顔を見てようやく自分が膝枕をされている事に気付く。
「うわぁあ!」
慌てて飛び上がり、錬金術士から距離を取る。
決して距離を取る必要は無かった。錬金術士は倒れてしまったお手伝いさんの介抱をしてくれていたわけだから、むしろお礼の一つでも言うべきところである。
だがお手伝いである自分が介抱された、そんな情けない姿を見られてしまったから距離を取らずにはいられなかった。
「もう平気なのー?」
錬金術士のその問いに、無言でコクコクと頷く。
「急に倒れちゃうんだもん、ビックリしちゃった。引っ叩いてもなかなか目覚めないし」
と、言う事は。
つまり錬金術士は、お手伝いさんがあのおにぎりのせいで倒れたとは思っていないわけだ。
「きっと疲れてたんじゃないかなって、いぬねこちゃんが言ってたけど……そうなの?」
言われていぬねこの方へ視線を移す。
どうして本当のことを言わないんですか、と。
本当の事を言ったところで傷つくだけだし、多分諦めない。
そんなアイコンタクトが返ってきた。
「そう……かもしれませんね」
傷ついても傷つかなくても諦めないならば、傷つかない方が良いに決まっている。
いぬねこのそんな優しさに乗っかった。
「だったら……ほら!」
ぽんぽんと、自分の太ももを軽く叩いた。
それはお手伝いさんに座るように促した時と同じくらい簡単に行われていた。
しかし意味合いは全く違う事に気付いているのかいないのか。まさか錬金術士の太ももに座れという意味ではないはずだ。ここまでの流れを考えると、そのジェスチャーが表す意味とは当然、膝枕だ。
その柔らかい太ももを枕にして寝ろと、錬金術士は言っている。
……無理だ。
お手伝いさんは素直にそう思った。
さっきは気絶していたから仕方ない。でも今回はそうじゃない。
しっかりと意識を持って、自分の意志で膝枕をしろと。
「いえ……もう大丈夫ですから!」
お手伝いさんは当然この誘いを断るしかなかった。意識が無いとはいえすでに膝枕をしてもらったのだ。もうそれだけで充分幸せだ。これ以上幸せを望んではいけない。
すると、いぬねこがこんな事を言ってきた。
「もう大丈夫というのなら、カゴがもう一つ残っている。それを食べて元気を出してもらうのはいかがかな? 目覚めたばかりな訳だし何か食べておいた方が良いだろう」
「それもそうだねー! 食べるー?」
錬金術士は残ったもう一つのカゴに手を伸ばす。このままでは、また異界の食べ物を口にしなくてはいけなくなる。
「アレー、ナンダカ目眩ガー」
ひどい棒読みだったが錬金術士にはこれだけで充分だった。
「シツレイシマス」
その行動を遮るように、錬金術士の太ももへ頭を乗せて、夢のようなひと時を堪能した。
当然と言っては当然だが、柔らかかったり良い香りが漂ってきたり、それを堪能出来るほどお手伝いさんの心には余裕が無かった。
真っ暗な視界が明るくなるが焦点が合わずにボケて映る。
「うぅっ……」
漏れた息から勝手にうめき声のような音が出てしまう。
そこで両頬の鈍い痛みが、段々と鋭い痛みに変わってきた。
「いてて……」
「お手伝い君! 良かったー……目が覚めて」
ピントの合わないボケたシルエットがお手伝いさんの顔をのぞいている。
段々と視界がハッキリとしてきて、鮮やかな青空にぷかぷかと浮かぶ雲はまるで錬金術士の髪の毛のようで……。
いや、この鼻先をくすぐるような感じは間違いなく錬金術士の髪の毛!
お手伝いさんを覗き込んでいたのは紛れもなく錬金術士だった。これまでの事のあらましを徐々に取り戻して、どうしてこんな事になっているのかという考えに辿り着く。
錬金術士が作ったおにぎりという名の最終兵器を口にした結果、意識が飛んでぶっ倒れた。
そして目が覚めたら……。
膝枕をされていた。
足を投げ出した状態の太ももに、お手伝いさんの頭が乗っかっている。
「えっと……?」
まだ目覚めたばかりのお手伝いさんは頭がうまく働かず、しばらくポカーンとした表情を浮かべていたが、覗き込む錬金術士の顔を見てようやく自分が膝枕をされている事に気付く。
「うわぁあ!」
慌てて飛び上がり、錬金術士から距離を取る。
決して距離を取る必要は無かった。錬金術士は倒れてしまったお手伝いさんの介抱をしてくれていたわけだから、むしろお礼の一つでも言うべきところである。
だがお手伝いである自分が介抱された、そんな情けない姿を見られてしまったから距離を取らずにはいられなかった。
「もう平気なのー?」
錬金術士のその問いに、無言でコクコクと頷く。
「急に倒れちゃうんだもん、ビックリしちゃった。引っ叩いてもなかなか目覚めないし」
と、言う事は。
つまり錬金術士は、お手伝いさんがあのおにぎりのせいで倒れたとは思っていないわけだ。
「きっと疲れてたんじゃないかなって、いぬねこちゃんが言ってたけど……そうなの?」
言われていぬねこの方へ視線を移す。
どうして本当のことを言わないんですか、と。
本当の事を言ったところで傷つくだけだし、多分諦めない。
そんなアイコンタクトが返ってきた。
「そう……かもしれませんね」
傷ついても傷つかなくても諦めないならば、傷つかない方が良いに決まっている。
いぬねこのそんな優しさに乗っかった。
「だったら……ほら!」
ぽんぽんと、自分の太ももを軽く叩いた。
それはお手伝いさんに座るように促した時と同じくらい簡単に行われていた。
しかし意味合いは全く違う事に気付いているのかいないのか。まさか錬金術士の太ももに座れという意味ではないはずだ。ここまでの流れを考えると、そのジェスチャーが表す意味とは当然、膝枕だ。
その柔らかい太ももを枕にして寝ろと、錬金術士は言っている。
……無理だ。
お手伝いさんは素直にそう思った。
さっきは気絶していたから仕方ない。でも今回はそうじゃない。
しっかりと意識を持って、自分の意志で膝枕をしろと。
「いえ……もう大丈夫ですから!」
お手伝いさんは当然この誘いを断るしかなかった。意識が無いとはいえすでに膝枕をしてもらったのだ。もうそれだけで充分幸せだ。これ以上幸せを望んではいけない。
すると、いぬねこがこんな事を言ってきた。
「もう大丈夫というのなら、カゴがもう一つ残っている。それを食べて元気を出してもらうのはいかがかな? 目覚めたばかりな訳だし何か食べておいた方が良いだろう」
「それもそうだねー! 食べるー?」
錬金術士は残ったもう一つのカゴに手を伸ばす。このままでは、また異界の食べ物を口にしなくてはいけなくなる。
「アレー、ナンダカ目眩ガー」
ひどい棒読みだったが錬金術士にはこれだけで充分だった。
「シツレイシマス」
その行動を遮るように、錬金術士の太ももへ頭を乗せて、夢のようなひと時を堪能した。
当然と言っては当然だが、柔らかかったり良い香りが漂ってきたり、それを堪能出来るほどお手伝いさんの心には余裕が無かった。
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