不老少女とふわふわたあめ
024 「親バカ」
先を歩く錬金術士の後ろをいぬねこと二人でついて行く。いぬねこはお手伝いさんの頭に乗っかっているので歩いていないが。
「先程の続きでもあるのだが……」
頭の上から声が降ってきた。前を歩く錬金術士には聞こえない程度の音量で。
「馬鹿は死んでも治らない、なんて言葉もあるんだが知っていたかい?」
「へー。知りませんでした」
言葉については博識ないぬねこは同じ音量で話を続ける。
「馬鹿と天才は紙一重という言葉と組み合わせて考えると、天才も死んだ所で治らないという理屈にならないかい?」
「ん……それはどうでしょうか」
馬鹿も天才も変わらない、同じ、という意味で捉えるのであればそういう理屈になってもおかしくはないが、馬鹿と天才は紙一重で違う、という意味であるならば天才は死んだら治るんじゃないのだろうか。天才からしてみたら、治りたくないだろうが。
だからこそ世の中には沢山の馬鹿がいて、天才は少なく出来ているんじゃないのか。
「仮に馬鹿と同様、天才も死んだ所で治らないとしよう。するとどうだろう、世の中には馬鹿か天才かの二つに両分されないかな?」
ふんふん、と言葉だけで頷く。
「でもどちらにも属さない普通の人もいますよね?」
「普通の人は死んだら治るとして、生まれ変わる時に馬鹿か天才かに別れる」
「となると、確かに世の中は馬鹿か天才かのどっちかになりますね」
いぬねこの言おうとしている事がさっぱり伝わらないがこのまま無言で歩いていてもつまらないだけなので話を合わせて会話を続ける。
「選択肢は馬鹿か天才かの二つしかないのに、どうして世の中には馬鹿が多いと思う? 普通は天才になりたいと思うものじゃないかな?」
「え? えぇっと……」
これはなんて答えれば良いのだろう。
頭を悩ませていると、待ち時間が切れたのか、お手伝いさんの言葉を待たずにいぬねこが答えた。
「馬鹿の方が楽だからさ。考える事柄が少なくて済むし、そもそも考える事自体やらなくていい時だってあるだろう。一方天才は、馬鹿の分の穴埋めとして考えなくてはいけない。一人で複数人分もの考慮を必要とする」
人間は確かに、自らを痛めつけたり貶めたりする事は無い。辛くて大変よりも、楽しくて楽な方が良いに決まっている。
〝楽〟しいも〝楽〟も同じ字で覚える事が少なくて済む。
「だからさっきの言葉は嘘なんかじゃない。彼女は間違いなく天才だよ。人々の依頼を聞き、考え、行動し、解決する。こんなこと馬鹿には出来ない。天才だからこそ出来る事さ」
いぬねこの言いたい事が分かってきた気がする。
お手伝いさんは錬金術士の事を心のどこかで馬鹿にしていたのかも知れない。それを敏感に感じ取ったいぬねこは、まるで我が子を守るかのようにして言ってきたのかも。
話題にマッチした皮肉めいた言葉が脳裏を掠め、くすっと笑ってしまう。
「なにがおかしいんだい?」
「いいえ、別に何でもないですよ。先生は天才です。言われなくても分かってますよ」
「それならば、小生から言うことは何も無い」
すこし気恥ずかしさを隠すようにして、いぬねこは言った。
錬金術士といぬねこは、天才と馬鹿みたいにお互いに必要な存在なのだろうとお手伝いさんは思った。
「先程の続きでもあるのだが……」
頭の上から声が降ってきた。前を歩く錬金術士には聞こえない程度の音量で。
「馬鹿は死んでも治らない、なんて言葉もあるんだが知っていたかい?」
「へー。知りませんでした」
言葉については博識ないぬねこは同じ音量で話を続ける。
「馬鹿と天才は紙一重という言葉と組み合わせて考えると、天才も死んだ所で治らないという理屈にならないかい?」
「ん……それはどうでしょうか」
馬鹿も天才も変わらない、同じ、という意味で捉えるのであればそういう理屈になってもおかしくはないが、馬鹿と天才は紙一重で違う、という意味であるならば天才は死んだら治るんじゃないのだろうか。天才からしてみたら、治りたくないだろうが。
だからこそ世の中には沢山の馬鹿がいて、天才は少なく出来ているんじゃないのか。
「仮に馬鹿と同様、天才も死んだ所で治らないとしよう。するとどうだろう、世の中には馬鹿か天才かの二つに両分されないかな?」
ふんふん、と言葉だけで頷く。
「でもどちらにも属さない普通の人もいますよね?」
「普通の人は死んだら治るとして、生まれ変わる時に馬鹿か天才かに別れる」
「となると、確かに世の中は馬鹿か天才かのどっちかになりますね」
いぬねこの言おうとしている事がさっぱり伝わらないがこのまま無言で歩いていてもつまらないだけなので話を合わせて会話を続ける。
「選択肢は馬鹿か天才かの二つしかないのに、どうして世の中には馬鹿が多いと思う? 普通は天才になりたいと思うものじゃないかな?」
「え? えぇっと……」
これはなんて答えれば良いのだろう。
頭を悩ませていると、待ち時間が切れたのか、お手伝いさんの言葉を待たずにいぬねこが答えた。
「馬鹿の方が楽だからさ。考える事柄が少なくて済むし、そもそも考える事自体やらなくていい時だってあるだろう。一方天才は、馬鹿の分の穴埋めとして考えなくてはいけない。一人で複数人分もの考慮を必要とする」
人間は確かに、自らを痛めつけたり貶めたりする事は無い。辛くて大変よりも、楽しくて楽な方が良いに決まっている。
〝楽〟しいも〝楽〟も同じ字で覚える事が少なくて済む。
「だからさっきの言葉は嘘なんかじゃない。彼女は間違いなく天才だよ。人々の依頼を聞き、考え、行動し、解決する。こんなこと馬鹿には出来ない。天才だからこそ出来る事さ」
いぬねこの言いたい事が分かってきた気がする。
お手伝いさんは錬金術士の事を心のどこかで馬鹿にしていたのかも知れない。それを敏感に感じ取ったいぬねこは、まるで我が子を守るかのようにして言ってきたのかも。
話題にマッチした皮肉めいた言葉が脳裏を掠め、くすっと笑ってしまう。
「なにがおかしいんだい?」
「いいえ、別に何でもないですよ。先生は天才です。言われなくても分かってますよ」
「それならば、小生から言うことは何も無い」
すこし気恥ずかしさを隠すようにして、いぬねこは言った。
錬金術士といぬねこは、天才と馬鹿みたいにお互いに必要な存在なのだろうとお手伝いさんは思った。
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