不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

033 「金色の瞳」

「どうして先生の料理を選んだんですか?」

 お手伝いさんはいぬねこに聞いていた。

「美味しそうだったからじゃないのかな? 小生にはいまいち分からないけれどね」
「美味しそうって……あれが?」
「さっきも言ったが、君は動物を舐めすぎているようだね。そもそも自然界に生きている動物はみんな危機回避能力に長けている。危ないと判断した物を食す事はまずないだろうし、栄養が有るのか無いのか、その程度の判断は出来るものだよ。加えていえば、恐らくこの怪鳥に味覚という感覚は存在しない。あったとしても極僅かなものだろう。だから彼女の料理を選んだのさ」

 いぬねこの饒舌な解説を聞きながら、お手伝いさんは未だに納得ができないでいる。
 言っている事は分かるけれど、それが錬金術士の暗黒物質を選んだ理由になるのか。
 安全性でいえばお手伝いさんが作った非常食の方が断然高いはずだ。栄養だって多分に含まれている。見た目だって暗黒物質よりは悪くないはずである。味だって美味しい。
 なのに暗黒物質を選んだという事は、お手伝いさんの非常食よりも栄養価があって餌として向いていると判断したからなのだろう。

「そういうものなんですかね」
「そういうものさ」

 無理矢理に納得した事にして、食事中のひな鳥達を眺める。
 怪鳥は器用にクチバシの先で暗黒物質だった食べ物をひな鳥に一匹ずつ与えていた。
 体格差があまりにもありすぎるため、怪鳥は我が子を潰したりしないように非常に丁寧に、慎重に、餌を与える。
 ひな鳥達は徐々に元気を取り戻していって、ピィピィ鳴き始めた。まるで、「もっとくれ、もっと食べたい」と言っているような気がしてくる。
 一番手前の、近い位置にいたひな鳥を見てみると、他の4羽と比べて一段と元気いっぱいで、わたわた動いて大口を開けている。
 そのとき、その一羽だけがパチリと目を開けた。
 そして目が合った。
 怪鳥の瞳は真っ赤に燃え上がるような赤い色をしていたが、そのひな鳥はまるで全てを見通すような、透き通った金色の瞳をしていた。
 あまりに美しい瞳だったのでもっと見ていたかったが、食事のローテーションが回ってきたらその目を閉じてしまった。
 どこかで見たような瞳の色だった。それもすごく身近な場所で。

「どうしたんだい?」
「あ、いえ……」

 思わず見惚れてしまっていたが、いぬねこの言葉で現実に引き戻される。

「それより、これからどうしましょうか? どうすれば先生の師匠の場所まで行けますかね」

 置いたままだった非常食をリュックに詰めながらいぬねこに聞く。

「そうだね……道なら小生が記憶しているから行けない事もないんだけれど、ここは来た事もない場所だからね……。せめて見た事がある所に出られればその後は何とかなるだろう」
「つまり、行動あるのみって事ですか」

 怪鳥に運んでもらうという選択肢を一瞬考えたが、却下した。子育てに忙しいみたいだし、しばらくは餌を与える事に集中してもらいたい。ここで声でもかけて手元が、いや口元が? 狂って我が子を潰してしまったなんて事になったらシャレにならないし。
 お手伝いさんはひな鳥の美しい瞳を思い出しながら、奥まった空間に向かってその場をゆっくりと後にした。

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