不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

041 「作戦会議」

 今までは細長い一本道だったが、突然広い空間に出た。

「これはまぁ……」
「小生は逃げる事を提案する」

 お手伝いさんが見た一筋の光は、出口の光ではなかった。
 では何の光だったのかと言うと、見上げるほど巨大な蛇の、鋭い眼光であったのだ。
 チラチラ見え隠れする枝分かれしている舌は、毒々しい紫色に染まり、体を覆う鱗はゴツゴツした岩のようになっていて、鱗というよりは甲羅のイメージに近い。
 人間を軽く丸呑みに出来るあの巨体に、ゴツゴツした甲羅のような鱗で締め上げられたら即死ものだろう。
 そんな蛇の向こう側に、まだ奥へと続く道が見える。
 お手伝いさんは、まさに蛇に睨まれた蛙のように動けないでいた。
 決して恐怖に足が竦んでいた訳ではなくて、ヘタに動いて相手を刺激しないためだ。

「大人しく逃がしてくれると思いますか?」
「…………」
「何か言ってくださいよいぬねこちゃん……!」
「確かに逃げる事を提案しはしたが、あまり無責任な事も言えないと思ってね」

 蛇は突然やってきた来訪者、お手伝いさんといぬねこを品定めでもしているのか、じーっと睨んでいる。
 すぐさま飛びかかってこなかっただけマシと考えるべきだろうか。

「いぬねこちゃんの知識で撃退する作戦を立てられませんか?」
「知識はあるが、それを作戦に生かせるほど小生は利口ではない」

 つまりこの蛇を何とか出来るような作戦はいぬねこからは出ないという事か。

「じゃあとりあえず、その知識とやらを僕に教えてください。二人で考えましょう」
「そこまでの時間は、無いようだけれどね」
「そうかもしれませんけど、お願いします」

 蛇は、徐々にその頭を高く高く持ち上げていた。そして右へ左へと様子を伺うように動かしている。
 お手伝いさんは何が来てもすぐに反応出来るように相手の一挙手一投足を見逃さぬよう、集中する。

「蛇は好戦的のように見られているけれど、基本は臆病だ。いきなり襲い掛かって来なかったのがいい証拠だろう。ああやって頭を高く持ち上げるのは相手を威嚇する動きらしい。体を出来るだけ大きく見せて強さをアピールしているんだ」
「そんな事しなくてもすでに大きいですけどね」
「小生もそう思う。恐らくそこは持ち前の臆病さが出たのだろうね」

 蛇は今にも襲い掛かってきそうな雰囲気だ。相手にそう思わせる動きをする事で、無駄な戦いを避けてきたのだろう。こんなのを見せられたら逃げ出したくもなる。
 しかしお手伝いさんは〝逃げる〟という選択肢をあえて捨てていた。
 大人しく逃がしてくれるならまだいいが、もしそうじゃなかった場合。ここまでの道のりは全て一本道でおまけにかなりの距離がある。残り少ない体力の問題もあるし絶対に逃げ切れない。

 それに戻った所で結局は切り立った岩壁に出てしまうし、錬金術士の事もある。
 そんなに時間を掛けてはいられない。今も刻一刻と錬金術士の命が削られているかも知れないと思うと、自然と逃げるような選択肢は無くなっていた。

「とりあえず、いくつか提案があります」

 果たして、お手伝いさん達はこの状況を打破出来るような作戦を提案出来るのだろうか。

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