不老少女とふわふわたあめ
特別編3 「節分(2/2)」
「節分にはもう一つ特徴的な行事があるんだが知っているかい?」
「え、まだ何かあるんですか……?」
錬金術士に追い回されてすでにヘトヘトなのに、二月三日はそんなにイベントごとあったかなとお手伝いさんは眉根を寄せて考えた。
またいぬねこの悪い冗談なのではないか、と。
「何かあるならそれもやろーよー!」
モグモグと豆を食べながら錬金術士。
「先生、豆食べすぎですよ。自分の歳の数だけ食べるって言ってたじゃないですか」
「私はこれでいいんだよー。よく覚えてないしー?」
「そんなこと言ってたくさん食べようとしてるだけでしょうに……」
やれやれと、お手伝いさんは食い意地の張った錬金術士を見てお手上げポーズ。
黙々と豆を食べ続ける錬金術士は放っておいて、床に散らばった豆を片付けつつもいぬねこに問う。
「それで、もう一つって何ですか? 今度は何投げるんですか?」
「いやいや、今度のは平和的なやつさ。……恵方巻きだよ」
平和的なやつと聞いて若干安心したお手伝いさんだったが、やはり聞いたことのない単語。
恵方巻き?
「分からないといった顔をしているね。ちゃんと説明してあげるから安心したまえ」
「それはどうも」
ただ単に説明したいだけだろうに、とは思ったが口にはしない。余計な事を言うと必ず揚げ足を取ってくるからだ。
「恵方巻きとは、いわゆる太巻きのことだね。毎年〝恵方〟と呼ばれる縁起の良い方角があってね、その方向を向いて太巻きを食べるのさ」
「なんか食べてばっかりですね」
「仕方ないだろう、めでたい事に食はつきものさ」
錬金術士は今も豆を口に放り込んでいるし、それに加えて恵方巻きなる太巻きを食べるとなると、お腹がいっぱいになって今晩のご飯は食べられないんじゃなかろうか。
そんな変な心配をしてしまう。
「じゃあとりあえず、今度は太巻きを作ればいいんですね?」
「そういうことだ。理解が早くて助かるよ」
満足げな表情を浮かべていぬねこが頷く。……そんな表情をしている気がするだけだが。
このアトリエにはお手伝いさんのおかげで食材と呼べる物はほとんどが揃っている。錬金術士は料理なんてしないし、いぬねこは料理なんて出来ないから、自然とお手伝いさんが料理担当になったためだ。
「具は何でもいいが、七種類で頼むよ。これは七福神という七人の有名な神様が由来で、福を巻き込むんだとか」
「分かりました」
何でもいいのであれば、すぐダメになってしまう生物を中心に具を考える。脳内で出来上がった具のラインナップだと海鮮巻きと言ったところか。
「私卵焼きがほしいなー! 甘いやつ!」
「はいはい……」
甘い卵焼きに海鮮は合うのか微妙なところだが、錬金術士の要望とあれば答えないわけにはいかない。
少しばかりメニューを調整して手際よく太巻きを作る準備を進めるお手伝いさん。
次々と食材を細長く切り、卵焼きも作ったりして大忙し。
「ふぅ……こんな感じでしょうか」
そうしてお手伝いさんの料理の腕前が遺憾なく発揮されてテーブルの上には美味しそうな恵方巻きが三本用意された。この手の料理は初めてだったがかなり綺麗に巻けた自信作。
早くも錬金術士が食べたそうにウズウズしていた。
「君……少しは小生のように落ち着きたまえ。恵方巻きを食べる時にはルールがあるんだ」
「えー。美味しそうなんだから早く食べちゃおーよー」
錬金術士に「美味しそう」と言われて密かに嬉しくなるお手伝いさんだが、「ルールは大切ですよ先生」と食べられてしまう前に釘を刺す。
ぶー、と頬を膨らませてそっぽを向く錬金術士。よほど早く食べたいらしい。
「今年の恵方は西南西だそうだから、ちょうど錬金釜がある方向だね。そしてここからが大切なのだが……食べ切るまでに一言も喋らなければ願いが叶うとされているんだ」
「願いが叶うんですか? それはすごいですね!」
一種の願掛けのようなものだろうから、その効果はあまり期待できないが面白そうだとお手伝いさんは思った。
……のだが、錬金術士は不満そうな顔。
「楽しく食べた方が美味しいのに喋っちゃだめなのー?」
「願いが叶わなくてもいいなら、好きなだけ喋るといい。小生は無言を貫くけれど」
「そういう行事みたいだから諦めて、とにかく頂きましょう! 西南西を向いて喋らずに食べ切ればいいんですよね?」
「うむ」
二人と一匹は揃って同じ方角を向いて「いただきます」と声を合わせた。
両手に握った太巻きを食べる二人。床に置かれた太巻きを食べる一匹。
(先生が仕事をしてくれますように。先生が健康に過ごせますように。先生が仕事をーー)
延々と同じ事を繰り返し願いながら食べるお手伝いさんだったが、すぐ隣の錬金術士が一口食べた途端に、
「おいし〜! お手伝い君これすごく美味しいよ〜!」
と、いきなり説明したルールを破ってきた。
「いや、喋っちゃダメだって言ったじゃないですか! ……あ」
そしてお手伝いさんも釣られて喋ってしまう。
せっかく錬金術士のための願い事をしていたのに……と落胆せずにはいられない。
「やれやれ……君たちは本当に、仲が良いようで何よりだよ」
無言を貫くと宣言したいぬねこも釣られたのか、それとも分かっていながらも喋ったのか。
「私の願いはすでに叶ってるから、願うような事なんて無いんだよー? だから気にせず食べちゃいます!」
錬金術士は、このメンバーで日々を過ごせれば、それで充分だと思っているのだった。
結局、太巻きが夕飯代わりとなり、楽しくお喋りをしながら恵方巻きを食べるといういつもの光景がアトリエに広がる。
僕達らしい節分を過ごせたかな、とお手伝いさんは満足したのでした。
「え、まだ何かあるんですか……?」
錬金術士に追い回されてすでにヘトヘトなのに、二月三日はそんなにイベントごとあったかなとお手伝いさんは眉根を寄せて考えた。
またいぬねこの悪い冗談なのではないか、と。
「何かあるならそれもやろーよー!」
モグモグと豆を食べながら錬金術士。
「先生、豆食べすぎですよ。自分の歳の数だけ食べるって言ってたじゃないですか」
「私はこれでいいんだよー。よく覚えてないしー?」
「そんなこと言ってたくさん食べようとしてるだけでしょうに……」
やれやれと、お手伝いさんは食い意地の張った錬金術士を見てお手上げポーズ。
黙々と豆を食べ続ける錬金術士は放っておいて、床に散らばった豆を片付けつつもいぬねこに問う。
「それで、もう一つって何ですか? 今度は何投げるんですか?」
「いやいや、今度のは平和的なやつさ。……恵方巻きだよ」
平和的なやつと聞いて若干安心したお手伝いさんだったが、やはり聞いたことのない単語。
恵方巻き?
「分からないといった顔をしているね。ちゃんと説明してあげるから安心したまえ」
「それはどうも」
ただ単に説明したいだけだろうに、とは思ったが口にはしない。余計な事を言うと必ず揚げ足を取ってくるからだ。
「恵方巻きとは、いわゆる太巻きのことだね。毎年〝恵方〟と呼ばれる縁起の良い方角があってね、その方向を向いて太巻きを食べるのさ」
「なんか食べてばっかりですね」
「仕方ないだろう、めでたい事に食はつきものさ」
錬金術士は今も豆を口に放り込んでいるし、それに加えて恵方巻きなる太巻きを食べるとなると、お腹がいっぱいになって今晩のご飯は食べられないんじゃなかろうか。
そんな変な心配をしてしまう。
「じゃあとりあえず、今度は太巻きを作ればいいんですね?」
「そういうことだ。理解が早くて助かるよ」
満足げな表情を浮かべていぬねこが頷く。……そんな表情をしている気がするだけだが。
このアトリエにはお手伝いさんのおかげで食材と呼べる物はほとんどが揃っている。錬金術士は料理なんてしないし、いぬねこは料理なんて出来ないから、自然とお手伝いさんが料理担当になったためだ。
「具は何でもいいが、七種類で頼むよ。これは七福神という七人の有名な神様が由来で、福を巻き込むんだとか」
「分かりました」
何でもいいのであれば、すぐダメになってしまう生物を中心に具を考える。脳内で出来上がった具のラインナップだと海鮮巻きと言ったところか。
「私卵焼きがほしいなー! 甘いやつ!」
「はいはい……」
甘い卵焼きに海鮮は合うのか微妙なところだが、錬金術士の要望とあれば答えないわけにはいかない。
少しばかりメニューを調整して手際よく太巻きを作る準備を進めるお手伝いさん。
次々と食材を細長く切り、卵焼きも作ったりして大忙し。
「ふぅ……こんな感じでしょうか」
そうしてお手伝いさんの料理の腕前が遺憾なく発揮されてテーブルの上には美味しそうな恵方巻きが三本用意された。この手の料理は初めてだったがかなり綺麗に巻けた自信作。
早くも錬金術士が食べたそうにウズウズしていた。
「君……少しは小生のように落ち着きたまえ。恵方巻きを食べる時にはルールがあるんだ」
「えー。美味しそうなんだから早く食べちゃおーよー」
錬金術士に「美味しそう」と言われて密かに嬉しくなるお手伝いさんだが、「ルールは大切ですよ先生」と食べられてしまう前に釘を刺す。
ぶー、と頬を膨らませてそっぽを向く錬金術士。よほど早く食べたいらしい。
「今年の恵方は西南西だそうだから、ちょうど錬金釜がある方向だね。そしてここからが大切なのだが……食べ切るまでに一言も喋らなければ願いが叶うとされているんだ」
「願いが叶うんですか? それはすごいですね!」
一種の願掛けのようなものだろうから、その効果はあまり期待できないが面白そうだとお手伝いさんは思った。
……のだが、錬金術士は不満そうな顔。
「楽しく食べた方が美味しいのに喋っちゃだめなのー?」
「願いが叶わなくてもいいなら、好きなだけ喋るといい。小生は無言を貫くけれど」
「そういう行事みたいだから諦めて、とにかく頂きましょう! 西南西を向いて喋らずに食べ切ればいいんですよね?」
「うむ」
二人と一匹は揃って同じ方角を向いて「いただきます」と声を合わせた。
両手に握った太巻きを食べる二人。床に置かれた太巻きを食べる一匹。
(先生が仕事をしてくれますように。先生が健康に過ごせますように。先生が仕事をーー)
延々と同じ事を繰り返し願いながら食べるお手伝いさんだったが、すぐ隣の錬金術士が一口食べた途端に、
「おいし〜! お手伝い君これすごく美味しいよ〜!」
と、いきなり説明したルールを破ってきた。
「いや、喋っちゃダメだって言ったじゃないですか! ……あ」
そしてお手伝いさんも釣られて喋ってしまう。
せっかく錬金術士のための願い事をしていたのに……と落胆せずにはいられない。
「やれやれ……君たちは本当に、仲が良いようで何よりだよ」
無言を貫くと宣言したいぬねこも釣られたのか、それとも分かっていながらも喋ったのか。
「私の願いはすでに叶ってるから、願うような事なんて無いんだよー? だから気にせず食べちゃいます!」
錬金術士は、このメンバーで日々を過ごせれば、それで充分だと思っているのだった。
結局、太巻きが夕飯代わりとなり、楽しくお喋りをしながら恵方巻きを食べるといういつもの光景がアトリエに広がる。
僕達らしい節分を過ごせたかな、とお手伝いさんは満足したのでした。
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