不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

043 「作戦会議・3」

 再び動けない時間が始まる。
 蛇は未だに警戒している。襲って来ない事が不自然に感じる。

「聴覚が進化してるんだとしたら、手の打ちようが無くないですか?」
「いや、物は考えようだよキミ。音を出さないように移動するのは無理かも知れないが、それなら音を聞こえないようにすれば良い」
「というと?」
「相手の耳を塞ぐのさ」
「どうやってですか……」

 この蛇に耳なんて器官は見当たらない。無いように見えるだけで本当はあったりするのかも知れないが、お手伝いさんには皆目見当も付かなかった。

「何も物理的に耳を塞げと言っているのではないよ」
「はい?」

 意味が分からない。耳を塞ぐと言ったらそのままの意味だろう。人間で言うなら手や耳栓で塞ぐ。そんな感じで物理的に塞がないでどうやって耳を塞ぐと言うのだ。

「逆転の発想をしたまえ。錬金術を学ぶには必要な思考だよ」
「いいから教えてくださいよこの状況分かってるんですか……!」

 ここにきていぬねこの回りくどい言い回しが始まってしまった。時間を掛けている暇は無い事をいぬねこは本当に分かっているのか。

「はいはい。ようは大きい音を出せば良いのさ」
「大きい音……? そうか、聴覚が進化してるんだから音に敏感なはず。巨大な音が出せれば奥の通路まで走る時間くらいは稼げるかもしれませんね」

 どうにかして轟音を出せれば蛇を怯ませる事も出来るかも知れない。なるほど確かに逆転の発想だ。
 知識はあっても利口じゃないといぬねこは言っていたが、全くの嘘っぱちじゃないか。知識があれば自然と利口になるものなんだ。

「ってちょっと待ってくださいよ」

 しかしお手伝いさんは気付いた。

「どうしたのかね?」
「どうやってその音を出すんですか?」
「そこはほらあれだよ……うん」
「考えてなかったんですね」

 実に分かりやすい反応だった。

「それにこの作戦は、思えば危険すぎますよね。蛇への刺激が大きすぎますから反撃を喰らうかもしれません」
「むぅ……」

 小さく唸るいぬねこ。やっぱり言ってた通り利口ではないのか?

「でも効果的でもありますし、いざという時にとっておきましょう」
「最終手段という奴だね。役に立てたようで良かったよ」

 いぬねこなりに、ここまで運んでもらった恩義でも感じていたのだろう。そのお返しとして、豊富な知識を持ってこの現状を打開する策を練っているのだ。
 敵前での作戦会議は、まだ続く。

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