不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

054 「三日三晩」

「こ、こんなもんでどうだ……?」

 ゴミの錬金速度よりも、気合いが入ったお手伝いさんの掃除スピードの方が上回っていたようで、何とかある程度は綺麗に出来た。まだまだ満足のいくレベルではないが、一人でやるにも限界というものはある。

 痛む体を押しての掃除だし、ここは無理は禁物ということで、少々休憩を挟むことにした。

 大きな一息を付きつつ、錬金術士を寝かせたあのソファーに満足感のような感覚に浸りながら深々と座り込む。

 散乱してた本も五十音順を基準にして大きさや厚さ、ジャンルやハードカバーかどうかまでしっかり気にしながら綺麗に並べてやったし、薄汚れていて外も満足に覗けなかった窓もピッカピカになった。これなら薄暗い印象を覚えていたこの家も少しは明るくなる。

 他にも、お手伝いさんの手が届く範囲は全て綺麗にした。ここまでやれば師匠も褒めてくれるだろうし、これなら汚名返上も出来るというものだ。

「それにしても皆遅いな……」

 掃除にかなり時間が掛かってしまっていたため、掃除中に用事を済ませた錬金術士達が戻って来ても何ら不自然な事はない。しかし未だに彼女達が戻って来る気配はなく、そのまま掃除はひと段落してしまった。

 一体皆で何をやっているのだろう。

「様子見てみようかな?」

 掃除に一生懸命だったため忘れていたが、今回は別に見ちゃダメとか言われていないわけだし、様子を見に行ったところで何の問題も無いはず。

 しかし錬金術は企業秘密みたいな要素が沢山あるらしいので、ちゃんとノックして許可を貰ってからになるだろう。

「おぉ、まるで別世界じゃねーか」

 その時、絶妙なタイミングで師匠が戻ってきた。

「まさかここまでキレーになるとは。逆に落ち着かねーレベルだな」

 とか言いながらもどっかり席に座って落ち着いている。

「おいクソ野郎。なにボケッとしてやがんだ、茶でも入れやがれ」
「あ、はい!」

 師匠に言われて慌ててお茶の用意をする。掃除をしている時に紅茶しか置いてなかった事は確認済みのため紅茶を淹れる。
 お手伝いさんが掃除したお陰でどこに何があるのかは全て把握しているため、手際よく用意出来た。

 このまま無言で用意するのも空気的に辛いので手を動かしながらも、とりあえず気になっている事を聞く。

「あの、先生といぬねこちゃんは……?」
「先生? ……あぁ弟子の事か」

 師匠は〝先生〟の事など誰の事かサッパリ分からなかったが、この場に居る人間は少ない。消去法で錬金術士の事だとすぐに分かった。

「アイツは今、修行で練金中だ。クソダヌキはサポートに付かせた。やる事は全部指示してあるから終わるまでは引き篭もりだろーな」
「それってどれくらいで終わるんですか?」
「知らねーよ、それはアイツ次第だな。練金自体はそんなに時間かかんねーが、満足出来るまで続けろって言ったからな、三日三晩続けたとしてもおかしくねーぜ?」

 いつものように淹れた紅茶を師匠の目の前に置く。

 三日三晩……。
 こんな場所で、こんな傍若無人な人と三日三晩。

 錬金術士やいぬねこが正直会いたくないと言っていた理由を何となく察したお手伝いさんは、心の中で密かに覚悟を固めるのだった。

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