不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

055 「ツマンネーだろ?」

 ティーカップを片手に優雅に香りを楽しむ師匠。見目麗しい容姿もあいまって思わず見惚れてしまうほど美しい光景ではあったが、

「香りは良いが、クソみてーな味だったら容赦しねーぞ?」

 その乱暴な言葉使いが美しさをボッコボコにぶちのめしていた。

 ズズズッとお手伝いさんが淹れた紅茶を飲む師匠。姿勢は正しいのに啜って飲む師匠。
 ああ、耳を塞いでいたい。
 そして思いっきり不味そうな顔をして文句を言ってきた。

「甘っ! テメー砂糖入れすぎだ!」
「うあ、すみません!」

 錬金術士がかなりの甘党と言う事もあって、ほとんど無意識に砂糖を多めに入れていた。お手伝いさんも最初は入れすぎの甘すぎだろうと思っていたが、彼女と過ごしているうちにいつの間にか普通の事になってしまっていたため、甘い紅茶を出していた。

 それに錬金術士の師匠だから、弟子は師に似ると言うし、てっきり師匠も甘党だと思い込んでいた事もある。

「すぐに淹れ直します!」
「いーよ別に。飲めねーこたねーし、もったいねーしな。それにどうせ、弟子の好みに合わせて淹れたんだろ? アイツ甘党だからな、お熱いこった」
「熱かったですか⁈ すみません!」
「いやそうじゃねーよ! ……まぁいいやバカバカしい」

 呆れた様子で師匠は紅茶を啜る。やはり師匠にとってこの紅茶は甘過ぎるのか、眉間に若干だがシワが寄っていた。
 錬金術士は味が気に入らないと遠慮無く残すので始末に困ったものだが、流石は大人の女性と言うべきか、苦手な味だったとしても残すような事はしないらしい。

「んで? テメーは何しに来たんだ?」
「え?」
「わざわざこんな山頂にまで来ておいて、弟子の付き添いと部屋掃除して終わりじゃツマンネーだろ?」

 師匠は急にそんな事を言う。
 言われてみれば今回の遠出はお手伝いさんにとっての目的が無い。
 たいした説明も無くただいきなり山の方に行くと言われ、お手伝いさんなりに材料の調達かなと目星を付けて準備した結果、予想は大外れした訳で、そもそもお手伝いさんは錬金術士の手伝いをするために一緒に過ごしているわけで、言ってしまえば彼女を手伝う事が目的だ。

 その錬金術士は今、部屋に篭っているため手伝いを必要としていない。
 修行しているわけだから、手伝ってしまったら本末転倒である。
 確かにそう考えてみると、ここにはわざわざ掃除だけをやりに来たのかと思えてくる。

 ここはこの状況を上手く利用するべきではないのか? せっかく錬金術士の師匠、つまり大先生が目の前にいるのだから、錬金術士が修行している間にこちらも大先生から色々と教わるべきでは?

「アタシもヒマしてるからな。ちょっと付き合え」
「え、付き合えって……?」

 暇してるのはやる事を全部押し付けてきたからではないのか。

「表へ出ろ。確かめたい事があるんでな、だから付き合え」

 そう言うと師匠は一気に紅茶を飲み干して「ごちそうさん」と呟いた後、外は既に暗いにも関わらず出て行った。
 山頂で、風もビュウビュウ吹いていて、あんな格好なのに寒くないのかなと心配しつつ、師匠の後に付いて行ったお手伝いさん。

 このあと待っている苦難の数々の事など、露ほども知らないお手伝いさんは果たしてどうなるのか……?

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