不老少女とふわふわたあめ
057 「師匠と」
玄関から家を出たお手伝いさんと師匠は、すぐにクルッと方向転換して家の壁伝いに裏手へと向かった。
冷たい風がビュウビュウ吹いているし、肌色多めな師匠の格好を後ろから見ていると余計に寒く感じる。
裏手には岩の壁がそそり立っているのだが、よくよく見てみると洞窟のような横穴が空いていて、師匠は迷わず中に入って行きお手伝いさんもそれに続く。
中に入ると風も収まり、それだけで暖かく感じてしまう。
師匠の家に辿り着く道中通った洞窟とは違って、すぐに広い空間が出迎えてくれた。
どうやらこの洞窟はここで終わりらしく、奥に続く道は見えない。
「ここは、アタシが作った作品の実験場みてーなところだ」
「実験場……?」
どんな実験をこの場所で繰り広げているのか皆目検討もつかないが、ろくでもないような事をしているんじゃないかとお手伝いさんは思う。
例えば、爆弾を使った強度実験とか。強度というのは物を作る仕事をするうえでは非常に重要な要素となる。
まぁ、爆弾を使ってまで強度を調べるような物なんかそうそう無いが。
「そこら辺にいろんな残骸が転がってんだろ? 実験の成れの果てだ」
洞窟の中は不思議と明るいがそれでも目が慣れてくるまでは充分な光量があるとは言えない。
ゆえに、言われてようやく気付いたが、壁際には何かのガラクタが山のように積まれていた。
「これからクソ野郎にはそれになってもらう」
「へ?」
そう言うと師匠は自分の大胆な谷間に手を突っ込むと、何かを取り出した。
出てきたのは自分の身の丈ほどもある、氷の結晶を意匠したスプーン。
「物理法則が仕事してない⁉︎」
谷間から出てくるようなサイズじゃない。常識破りで掟破りにも程がある。
「オラ行くぞ。油断してるとマジで死ぬからな」
師匠は手に持った巨大なスプーンを器用に操ると、先端をお手伝いさんに向けた。
「そうそうその前に、お約束として説明してやるよ」
「お約束? 説明?」
師匠が何の事を言っているのかよく分からないお手伝いさんだが、どんな事であれ説明してくれるのであればありがたい。
「このスプーンはな、私の最高傑作で自信作だ。アタシの夏休みを全部返上して作った。どんな効果があるかはこれから見せてやる」
師匠が自分で、恐らく錬金術で作ったスプーンは武器として使用するつもりらしい。
魔法が付与された剣の事をエンチャントソードと言い、特別な効果があるとどこかで聞いた。師匠の言う通りあのスプーンに何か効果があるのならば、エンチャントソードのスプーン版と置き換えていいだろう。
だがお手伝いさんが知りたい事はそんな事ではなかった。
「これから何をするんですか」
知りたい事は、ただそれだけ。
「はぁ? まだわかんねーのか? アタシがテメーをガラクタにする。テメーはそれ
を回避する。それだけだろーが」
……何をやろうとしているのかは分かった。
しかし同時に分からない事が増えた。
どうしてそんな事をするのか、という疑問。
「まだ分かんねーって顔してんな。さっき言ったろ。〝クソみてーな味だったら容赦しねーぞ〟ってな」
紅茶を淹れた時に言っていた言葉だ。
あの紅茶は師匠にとっては甘過ぎた。クソみてーな味という評価だったんだ。
「暇つぶしも兼ねて〝容赦しねー〟を実行するってこった。分かったな?」
正直、分かりたくなかったが分かってしまった。
腹癒せだ。暇つぶしに腹癒せをするつもりなんだ。
半世紀前に破壊と混沌を撒き散らした魔法使い。
その魔法使いが世に残した遺物、エンチャント。
あのスプーンは危険な物に違いない。だからこそ、この実験場を選んだんだ。
「行くぜ?」
スプーンの先を向けたまま、ニヤリと笑う。
お手伝いさんは身構える。何が来たとしても、対処できるように。
冷たい風がビュウビュウ吹いているし、肌色多めな師匠の格好を後ろから見ていると余計に寒く感じる。
裏手には岩の壁がそそり立っているのだが、よくよく見てみると洞窟のような横穴が空いていて、師匠は迷わず中に入って行きお手伝いさんもそれに続く。
中に入ると風も収まり、それだけで暖かく感じてしまう。
師匠の家に辿り着く道中通った洞窟とは違って、すぐに広い空間が出迎えてくれた。
どうやらこの洞窟はここで終わりらしく、奥に続く道は見えない。
「ここは、アタシが作った作品の実験場みてーなところだ」
「実験場……?」
どんな実験をこの場所で繰り広げているのか皆目検討もつかないが、ろくでもないような事をしているんじゃないかとお手伝いさんは思う。
例えば、爆弾を使った強度実験とか。強度というのは物を作る仕事をするうえでは非常に重要な要素となる。
まぁ、爆弾を使ってまで強度を調べるような物なんかそうそう無いが。
「そこら辺にいろんな残骸が転がってんだろ? 実験の成れの果てだ」
洞窟の中は不思議と明るいがそれでも目が慣れてくるまでは充分な光量があるとは言えない。
ゆえに、言われてようやく気付いたが、壁際には何かのガラクタが山のように積まれていた。
「これからクソ野郎にはそれになってもらう」
「へ?」
そう言うと師匠は自分の大胆な谷間に手を突っ込むと、何かを取り出した。
出てきたのは自分の身の丈ほどもある、氷の結晶を意匠したスプーン。
「物理法則が仕事してない⁉︎」
谷間から出てくるようなサイズじゃない。常識破りで掟破りにも程がある。
「オラ行くぞ。油断してるとマジで死ぬからな」
師匠は手に持った巨大なスプーンを器用に操ると、先端をお手伝いさんに向けた。
「そうそうその前に、お約束として説明してやるよ」
「お約束? 説明?」
師匠が何の事を言っているのかよく分からないお手伝いさんだが、どんな事であれ説明してくれるのであればありがたい。
「このスプーンはな、私の最高傑作で自信作だ。アタシの夏休みを全部返上して作った。どんな効果があるかはこれから見せてやる」
師匠が自分で、恐らく錬金術で作ったスプーンは武器として使用するつもりらしい。
魔法が付与された剣の事をエンチャントソードと言い、特別な効果があるとどこかで聞いた。師匠の言う通りあのスプーンに何か効果があるのならば、エンチャントソードのスプーン版と置き換えていいだろう。
だがお手伝いさんが知りたい事はそんな事ではなかった。
「これから何をするんですか」
知りたい事は、ただそれだけ。
「はぁ? まだわかんねーのか? アタシがテメーをガラクタにする。テメーはそれ
を回避する。それだけだろーが」
……何をやろうとしているのかは分かった。
しかし同時に分からない事が増えた。
どうしてそんな事をするのか、という疑問。
「まだ分かんねーって顔してんな。さっき言ったろ。〝クソみてーな味だったら容赦しねーぞ〟ってな」
紅茶を淹れた時に言っていた言葉だ。
あの紅茶は師匠にとっては甘過ぎた。クソみてーな味という評価だったんだ。
「暇つぶしも兼ねて〝容赦しねー〟を実行するってこった。分かったな?」
正直、分かりたくなかったが分かってしまった。
腹癒せだ。暇つぶしに腹癒せをするつもりなんだ。
半世紀前に破壊と混沌を撒き散らした魔法使い。
その魔法使いが世に残した遺物、エンチャント。
あのスプーンは危険な物に違いない。だからこそ、この実験場を選んだんだ。
「行くぜ?」
スプーンの先を向けたまま、ニヤリと笑う。
お手伝いさんは身構える。何が来たとしても、対処できるように。
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