不老少女とふわふわたあめ
069 「いい夢見れたか?」
お手伝いさんは夢を見た。
見上げても全貌が見えないほどの巨大な壁が迫ってくる。それから必死に逃げるが前方にも同じ壁が立ちはだかり、前後が進行不能となる。
残る左右に歩を向けると、どういうわけかそちらにも壁が。完全に手詰まりで、まるで、井の中の蛙。
蛙が最後に見た光景は、周囲を囲む圧迫感のある壁と、何者にも縛られない青い空が僅か。
お手伝いさんは、徐々に幅を狭めてくる壁に、押し潰され……
「なんだこの壁……柔らかい?」
押し潰されなかった。
今もなお全方位から徐々に迫り来る壁だが、よくよく見てみればきめ細やかでふにふにとしている。
そして壁と壁が完全に密着し、お手伝いさんはついに挟まれる。しかしそれ自体が柔らかいため、グシャグシャに潰されて圧死、というえぐいことにはならない。
だが、身動きがとれない。
それに、
「はぁ……はぁ……」
息が苦しい。
密閉状態のため、お手伝いさんの呼吸で酸素が無くなってきている。なんとか酸素を補給するべく、少しでも隙間を作ろうと必死にもがくが意味をなさない。
いよいよ死を覚悟して、最後の悪あがき的に隙間を作ろうと力を込め、
「――っぷはぁ?!」
目が覚めた。
目が覚めたのにお手伝いさんは、まだ夢は終わっていないと錯覚する。
身動きがとれず、未だにあの壁が眼前にあるからだ。
「よぉ、クソ野郎。いい夢見れたか?」
そして頭付近から聞き覚えのある声が。この呼び方で自分を呼ぶのは一人しかいない。
恐る恐る視線を持ち上げると、息のかかるほど近くに、師匠の顔が。
腕を回して抱きつくようにして、一緒にソファーの上で寝転がっていた。
いま目の前にある壁は壁ではなくて、師匠の胸だ。魔女風でありながら肌色多めの大胆な格好で師匠は、お手伝いさんの顔を胸の谷間に埋めていたのだ。
「~~~~~~~っ?!」
声にならない悲鳴を上げて、現状を理解したお手伝いさんの顔は真っ青になる。体がガクガクと震え、冷や汗がじわりと。
「うん? 真っ赤になるかと思ってたが、真っ青になりやがったぞ」
お手伝いさんはこのショックで思い出した。風呂上がりらしい師匠の裸に近い身体を見てしまい、激しくぶっ飛ばされたことを。
「これはアタシからやったことだから気にするな。ラッキースケベはゆるさんがな」
師匠の中にあるそういったことの境界線が全然見えない。あれはダメで、これはいいのか。
「あ、あの……とりあえず、は、離れてくれませんか……?!」
ガッチリと抱きしめられていて、身動きがとれなかった。夢の中のように必死にもがけば抜けられるかもしれないが、師匠相手に乱暴するわけにはいかない。
「ちょっとさみーから、もう少しこのままでいーだろ」
「よくないですよ! そもそも暖炉があるじゃないですか!」
「火が消えちまった」
「じゃあ僕が点けますから!」
「んじゃー頼むわ」
そう言うと師匠はあっけなく解放してくれた。
悪魔の呪縛から解き放たれたかのような安心感に包まれながら、お手伝いさんはいそいそと暖炉に火を点す。
綺麗にした窓から外を眺めてみれば、地平からちょうど太陽が顔を覗かせるところだ。
山の頂上付近から見る朝日。
こんなにも……綺麗だったなんて。
「おーいクソ野郎。腹が減った。なんか作れ」
「…………」
あの親あればこの子あり、みたいな。
正確には逆だが、錬金術士みたいなことを言う師匠にため息すら出なかった。
「おーい?」
「はいはいただいま」
ついいつもの調子で返事をしてしまい、神速のグーパンが顔面に吸い込まれるように飛んできてぶっ飛ばされる。
「いってて……」
頬を盛大に腫らしたまま、涙目で朝食を作るのだった。
見上げても全貌が見えないほどの巨大な壁が迫ってくる。それから必死に逃げるが前方にも同じ壁が立ちはだかり、前後が進行不能となる。
残る左右に歩を向けると、どういうわけかそちらにも壁が。完全に手詰まりで、まるで、井の中の蛙。
蛙が最後に見た光景は、周囲を囲む圧迫感のある壁と、何者にも縛られない青い空が僅か。
お手伝いさんは、徐々に幅を狭めてくる壁に、押し潰され……
「なんだこの壁……柔らかい?」
押し潰されなかった。
今もなお全方位から徐々に迫り来る壁だが、よくよく見てみればきめ細やかでふにふにとしている。
そして壁と壁が完全に密着し、お手伝いさんはついに挟まれる。しかしそれ自体が柔らかいため、グシャグシャに潰されて圧死、というえぐいことにはならない。
だが、身動きがとれない。
それに、
「はぁ……はぁ……」
息が苦しい。
密閉状態のため、お手伝いさんの呼吸で酸素が無くなってきている。なんとか酸素を補給するべく、少しでも隙間を作ろうと必死にもがくが意味をなさない。
いよいよ死を覚悟して、最後の悪あがき的に隙間を作ろうと力を込め、
「――っぷはぁ?!」
目が覚めた。
目が覚めたのにお手伝いさんは、まだ夢は終わっていないと錯覚する。
身動きがとれず、未だにあの壁が眼前にあるからだ。
「よぉ、クソ野郎。いい夢見れたか?」
そして頭付近から聞き覚えのある声が。この呼び方で自分を呼ぶのは一人しかいない。
恐る恐る視線を持ち上げると、息のかかるほど近くに、師匠の顔が。
腕を回して抱きつくようにして、一緒にソファーの上で寝転がっていた。
いま目の前にある壁は壁ではなくて、師匠の胸だ。魔女風でありながら肌色多めの大胆な格好で師匠は、お手伝いさんの顔を胸の谷間に埋めていたのだ。
「~~~~~~~っ?!」
声にならない悲鳴を上げて、現状を理解したお手伝いさんの顔は真っ青になる。体がガクガクと震え、冷や汗がじわりと。
「うん? 真っ赤になるかと思ってたが、真っ青になりやがったぞ」
お手伝いさんはこのショックで思い出した。風呂上がりらしい師匠の裸に近い身体を見てしまい、激しくぶっ飛ばされたことを。
「これはアタシからやったことだから気にするな。ラッキースケベはゆるさんがな」
師匠の中にあるそういったことの境界線が全然見えない。あれはダメで、これはいいのか。
「あ、あの……とりあえず、は、離れてくれませんか……?!」
ガッチリと抱きしめられていて、身動きがとれなかった。夢の中のように必死にもがけば抜けられるかもしれないが、師匠相手に乱暴するわけにはいかない。
「ちょっとさみーから、もう少しこのままでいーだろ」
「よくないですよ! そもそも暖炉があるじゃないですか!」
「火が消えちまった」
「じゃあ僕が点けますから!」
「んじゃー頼むわ」
そう言うと師匠はあっけなく解放してくれた。
悪魔の呪縛から解き放たれたかのような安心感に包まれながら、お手伝いさんはいそいそと暖炉に火を点す。
綺麗にした窓から外を眺めてみれば、地平からちょうど太陽が顔を覗かせるところだ。
山の頂上付近から見る朝日。
こんなにも……綺麗だったなんて。
「おーいクソ野郎。腹が減った。なんか作れ」
「…………」
あの親あればこの子あり、みたいな。
正確には逆だが、錬金術士みたいなことを言う師匠にため息すら出なかった。
「おーい?」
「はいはいただいま」
ついいつもの調子で返事をしてしまい、神速のグーパンが顔面に吸い込まれるように飛んできてぶっ飛ばされる。
「いってて……」
頬を盛大に腫らしたまま、涙目で朝食を作るのだった。
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