不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

074 「無事だといいんだけど」

 いなくなってしまったらしいいぬねこの姿を探して、先をズカズカと歩いて行ってしまう師匠の背中を追いかける。

 手袋を扱えるようになる修行でしばらく洞窟に篭っていたため、太陽はすでに傾いて空を赤く染め上げている。

 この時間に外に出るのは色々と危険なのでは。

「大先生! アトリエの中にいるかもしれないじゃないですか! まずは中を探すべきでは!?」
「アタシの部屋にいねーんじゃ、このアトリエにはいねーよ。他にはバスルームとリビングと倉庫としかねーんだ、そこにいるなら弟子がとっくに見つけてるだろ」
「あ、そうか……それでも見当たらなかったから先生がリビングまで確認に来たんですよね」

 いつものんびり笑顔を浮かべている錬金術士があんなに不安そうな表情を浮かべているところを初めて見た。
 できることなら、あんな顔は見たくない。さっさと見つけて、連れて帰ろう。

「でも、いぬねこちゃんの行き先に心当たりでもあるんですか?」

 まるで迷うことなく先を歩いて行っているのでもしかしたらと思ったのだが、

「あるわけねーだろ」

 あっけらかんと言う師匠。
 ずっこけそうになるのを堪えて、師匠の後ろまでようやく追いつく。

「だが、いなくなったタイミングなら大体想像はつく。アタシ等が洞窟にいた時だろう」

 師匠のアトリエには窓以外に出入り口はリビングと隣接している正面の玄関しかない。外に出るためにはリビングを通らなくてはならないわけだ。

「つまり不在の時間は最長でも1日とかそこらくらいなわけだ。あの足じゃそう遠くへは行けねーだろーから、さっさと探しに出た方が得策なんだ」

 猪突猛進かと思われたが、以外と考えていて少し驚く。
 師匠がいつからこのアトリエで暮らしているのかお手伝いさんには見当もつかないが、ここら周辺はきっと師匠にとっては庭のようなものなのかもしれない。

(日が落ちかけてるし……無事だといいんだけど)

 いぬねこの身を案じ、同時に自分自身にも同じことを思う。師匠が一緒とはいえ、この山にはいい思い出は一つもないわけで。
 安全に戻って来れるとは限らないのだ。
 怪鳥もいるし、大蛇もいるし、オオカミもいる。

 師匠からもらった手袋の感触を確かめながら、足元が不安定になりつつある前方を見据えるのだった。

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