不老少女とふわふわたあめ
079 「ひゃい」
危うく二重の意味で命を落としそうになった師匠とお手伝いさんだが、八方塞がりとなっていた。
「別にアタシのせいじゃねーぞ。足場の根性が足りねーんだ」
無機物に根性とか通用するのか疑問だが、彼女の体重については触れないようにした。そのことを口にした瞬間、今度こそ命を落とすことになるだろうことは自明の理だからだ。
「どうしましょう……俗に言う二重遭難ってやつですよこれ」
遭難した者を救出しようとして遭難する、二重遭難。まさにお手伝いさん達の現状と一致している。
「遭難はしてねーよ。道わかるし。動けないだけだし」
「なに子供みたいなこと言ってるんですか……」
腕を組んでそっぽを向く師匠に嘆息する。
言っていることは間違っていないかもしれないが、これは非常に危うい状況である。二人が立っているこの足場も、いつ崩れるかも分からない。
「これだけ急斜面だと登るのも降りるのも難しそうですね……」
手や足を差し込む取っ掛かりがあるにはあるが、暗くて視界が悪いため危険だ。
「大先生。その光の球を借りることはできますか?」
明かりさえあれば、お手伝いさんだけでも登ることができるだろう。そうすれば、師匠のアトリエまで戻ってロープを調達するなりできるはず。正直もう一度手袋を縄の状態へ持っていける気はしなかった。
だが——、
「こいつはアタシについてくるようになってるからムリだ」
「そうですか……」
そう都合よくいかないことは分かっていたつもりだが、肩を落とすお手伝いさん。
「この手袋の糸の範囲はどれくらいなんですか?」
「それは熟練度によるな。今のテメーなら数メートルがいいとこじゃねーか?」
「いちおう聞いておきますけど、大先生の想定する限界はどれくらいですか?」
「繊維一本を限界まで伸ばしたらどれくらいになるかってことだろ? 1キロは下らねーと思うぞ」
あらゆるものを切断できてしまう頑丈すぎる繊維を理論上は1キロ以上で展開できる。とんでもない物を作り出したものだなと恐れ慄きつつ、実力不足を痛感する。
この手袋を手足のように操ることができれば、この程度の状況は脱することができたのだから。
「数メートルじゃ上まで届きそうにないですね」
お手伝いさんの何でも入っているんじゃないかと思える不思議な荷物はアトリエに置いてきてしまった。あれさえ持ってきていればロープもあったし、食料もあった。
しかし今は手ぶら。師匠も手ぶら。
「よくよく考えてみれば、どうして何も持たずに探しに出ちゃったんですかね……」
今更になって浅はかだったと後悔した。
「いぬねこちゃんは無事だといいんですけど」
「まずはテメーの心配をしたらどーだ?」
「それはそうですけど……もうどうすればいいのか」
師匠がそばにいるとはいえ、心細さから心身が削られていくのを自覚する。心が弱れば自然と体も動かなくなる。決して寒さだけの問題ではない。
「とりあえずさみーし、暖をとるか」
「そうですね、これ以上動くのは危険ですし、それが得策だと思います。って、どうやって暖をとるんですか?」
「人肌に決まってんだろーが」
「…………」
山で遭難した時のお約束、みたいな話は聞いたことあったような気がしないでもないが、それは雪山での山小屋でやることでは?
お手伝いさんの頭の中ではグルグルと思考が回っていた。
「よし、クソ野郎は目を閉じろ」
「ひゃい」
もうどうにでもなーれ。
考えることを放棄して、お手伝いさんは言われた通り目をつむる。
途端、ゴスッという嫌な打撃音とともに後頭部から鈍痛が。
「死ななければ体温は保たれるだろ。いい思いできると思うなよ」
という言葉を最後に、お手伝いさんは気を失った。
「別にアタシのせいじゃねーぞ。足場の根性が足りねーんだ」
無機物に根性とか通用するのか疑問だが、彼女の体重については触れないようにした。そのことを口にした瞬間、今度こそ命を落とすことになるだろうことは自明の理だからだ。
「どうしましょう……俗に言う二重遭難ってやつですよこれ」
遭難した者を救出しようとして遭難する、二重遭難。まさにお手伝いさん達の現状と一致している。
「遭難はしてねーよ。道わかるし。動けないだけだし」
「なに子供みたいなこと言ってるんですか……」
腕を組んでそっぽを向く師匠に嘆息する。
言っていることは間違っていないかもしれないが、これは非常に危うい状況である。二人が立っているこの足場も、いつ崩れるかも分からない。
「これだけ急斜面だと登るのも降りるのも難しそうですね……」
手や足を差し込む取っ掛かりがあるにはあるが、暗くて視界が悪いため危険だ。
「大先生。その光の球を借りることはできますか?」
明かりさえあれば、お手伝いさんだけでも登ることができるだろう。そうすれば、師匠のアトリエまで戻ってロープを調達するなりできるはず。正直もう一度手袋を縄の状態へ持っていける気はしなかった。
だが——、
「こいつはアタシについてくるようになってるからムリだ」
「そうですか……」
そう都合よくいかないことは分かっていたつもりだが、肩を落とすお手伝いさん。
「この手袋の糸の範囲はどれくらいなんですか?」
「それは熟練度によるな。今のテメーなら数メートルがいいとこじゃねーか?」
「いちおう聞いておきますけど、大先生の想定する限界はどれくらいですか?」
「繊維一本を限界まで伸ばしたらどれくらいになるかってことだろ? 1キロは下らねーと思うぞ」
あらゆるものを切断できてしまう頑丈すぎる繊維を理論上は1キロ以上で展開できる。とんでもない物を作り出したものだなと恐れ慄きつつ、実力不足を痛感する。
この手袋を手足のように操ることができれば、この程度の状況は脱することができたのだから。
「数メートルじゃ上まで届きそうにないですね」
お手伝いさんの何でも入っているんじゃないかと思える不思議な荷物はアトリエに置いてきてしまった。あれさえ持ってきていればロープもあったし、食料もあった。
しかし今は手ぶら。師匠も手ぶら。
「よくよく考えてみれば、どうして何も持たずに探しに出ちゃったんですかね……」
今更になって浅はかだったと後悔した。
「いぬねこちゃんは無事だといいんですけど」
「まずはテメーの心配をしたらどーだ?」
「それはそうですけど……もうどうすればいいのか」
師匠がそばにいるとはいえ、心細さから心身が削られていくのを自覚する。心が弱れば自然と体も動かなくなる。決して寒さだけの問題ではない。
「とりあえずさみーし、暖をとるか」
「そうですね、これ以上動くのは危険ですし、それが得策だと思います。って、どうやって暖をとるんですか?」
「人肌に決まってんだろーが」
「…………」
山で遭難した時のお約束、みたいな話は聞いたことあったような気がしないでもないが、それは雪山での山小屋でやることでは?
お手伝いさんの頭の中ではグルグルと思考が回っていた。
「よし、クソ野郎は目を閉じろ」
「ひゃい」
もうどうにでもなーれ。
考えることを放棄して、お手伝いさんは言われた通り目をつむる。
途端、ゴスッという嫌な打撃音とともに後頭部から鈍痛が。
「死ななければ体温は保たれるだろ。いい思いできると思うなよ」
という言葉を最後に、お手伝いさんは気を失った。
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