不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

082 「あ、思い出した」

 お手伝いさんがつまみ上げたアイテム。それは一辺が2mはあろうかという大きな正方形の布。

「そいつは……なんだったかな……布だ」
「それは見れば分かりますって……」

 師匠すらどんなアイテムなのか忘れてしまったようで、とぼけたように言う。
 やれやれと隠れて小さくため息を漏らしつつ、とりあえず調べてみる。
 初めて見る素材で作られていて、とにかく丈夫そうだ。デザインは至ってシンプルで、濃紫色をしているだけ。

 手袋を外して肌触りを確認するが、どことなくその手袋と似たような感触だ。同じような素材を使用しているのかもしれないが、「目ん玉こぼれるからやめとけ」と言っていたし詳しい事は聞かない方がいいのかもしれない。

「例えばこれを切って繋いで、ロープにするというのは?」
「ダメだ。私が作ったアイテムを粗末にすることは許さん」

 存在すら忘れていたような人が何を言っているんだ。
 とは言えなかったお手伝いさんだった。

「そもそも長さが足りるか分かりませんもんね……」

 上も下も真っ暗で先が見えない。上は先ほど落ちてきたばかりなので高さも体感としてそれなりに想像がつくが、下に関しては未知。
 すごく高いかもしれないし、もしかしたら飛び降りれるくらいの高さかもしれない。

「あ、思いだ——いや、その布は、電気を流すと硬化する布だ」
「思い出したんですか」
「ちげーし。初めから分かってたし」

 子供のように唇を尖らせる師匠。いつも難しい顔をしているので珍しい。

「しかし電気を流すと硬化する、ですか。どれくらい硬くなるんですか?」
「多少の弾力がある程度で、ガッチガチになる。流す電気の量でも調節できる」

 それが本当ならすごい発明だなと感心するお手伝いさん。いろいろな物に応用ができそうだ。

「随分と便利そうな物ですけど、大量生産とかしようと思わないんですか?」
「素材がな……やっぱ入手すんのがむずくて大量生産はやってらんねー」

 お手伝いさんが想像するに、師匠がその気になれば素材を手に入れること自体は苦でもないはずだ。ただ素材を手に入れる手間を面倒くさがっているに過ぎないのだと。

(これは苦労して増やすだけの価値がありそうなんだけど)

 例えば武器や防具に応用ができるだろう。電気を流して固めれば、叩けるし、防げる。使わない時は畳んで仕舞っておけるし、鉄よりも明らかに軽量なので持ち運びも便利。

(そんなに簡単な話でもないってことか)

 とにかくこれは使えそうだ。
 お手伝いさんと師匠の、二人の時間は続く。

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