不老少女とふわふわたあめ
087 「好きか嫌いか、どっちだ」
光の玉によって僅かに照らされた道を師匠は迷う素振り一つなく歩いていく。
(それにしてもあのクソ野郎……まさかこの短期間であそこまで手袋を使いこなすとはな……)
飛び移った足場が崩れて不覚にも死にかけた時、お手伝いさんに渡しておいた極細の繊維を出すことができる手袋によって助けられたわけだが……。
(このアタシですらまともに使えなかったってのにな。こりゃー、ますます〝怪しく〟なってきやがった。思い過ごしだと良かったんだが……)
師匠の脳裏にこびりついて離れないとある懸念。
それが先ほどの出来事によってますます濃くなってきた。
(クソ野郎に手袋渡したのはもしかすると失敗だったかもしれん。とは言え、渡さなかったら落っこちてたし、あの子を守るためにはやはり必要になる……)
守るための力として渡した物が逆効果になる可能性。
それがどうしても拭い切れなかった。
(信じるしかない……か。何処の馬の骨とも知れん男だが、あの子の目は信用に値する……はず)
ここまで思っておいて何だが、ほんわか錬金術士は特に何も考えずに彼をそばに置いているような気がしてきて、仄かに心配になってきた。身の回りの世話を率先してやってくれるから便利に使っているだけなのかも知れない。
「おいクソ野郎」
「はい、なんですか?」
かなり早足で歩いているが、しっかりついてきているお手伝いさんに向けて突飛なことを問う。
「あの子のことは好きか?」
「げふぅ!?」
突飛すぎて、変な声を上げながらすっ転ぶお手伝いさん。しかし師匠は目もくれずどんどん先へと歩いていく。
「ええとですね……質問の意味がよくわからないのですが……!?」
急いで追いついたはいいが、師匠の質問にはどう答えればいいのか考えてしまう。
「そのまんまの意味だ。好きか嫌いか、どっちだ」
「そりゃ嫌いではないですよ、命の恩人なわけですし……」
「テメーは助けてくれりゃ誰にでもホイホイついていくってのか?」
「それは……違います。最初はそうだったかもしれませんけど、今はそれだけじゃ——」
お手伝いさんの言葉は最後まで紡がれることはなかった。
二人の耳に、背筋を凍らせるような低く耳障りな唸り声が届いたのだ。
「チッ。どうやら縄張りに入っちまったよーだな」
師匠は光の玉の光量を上げ、視認できる範囲を広げると、そこには見覚えのあるシルエットが無数に。
前脚に痛々しい銃痕がある一回り大きいオオカミ。そしてその後ろに付き従うように子分のオオカミが控えている。
「あのオオカミ……」
お手伝いさんには見覚えがあった。先頭にいるオオカミの群れのボスにある銃痕はお手伝いさんが錬金術士を助けた時に付けたものに間違いない。
すでにオオカミは姿勢を低く保ち臨戦態勢。あの傷でまともに動けるとは思えないが、動物の身体能力と執念は底知れないものがある。
決して油断はできない。
「知り合いか?」
「まさか。顔見知り程度です」
不敵に笑いあい、臨戦態勢に。
この状況に陥って逃げるという選択肢はありえない。
お手伝いさんは手袋を、師匠は谷間から氷の意匠されたスプーンを取り出して、立ち向かう。
(それにしてもあのクソ野郎……まさかこの短期間であそこまで手袋を使いこなすとはな……)
飛び移った足場が崩れて不覚にも死にかけた時、お手伝いさんに渡しておいた極細の繊維を出すことができる手袋によって助けられたわけだが……。
(このアタシですらまともに使えなかったってのにな。こりゃー、ますます〝怪しく〟なってきやがった。思い過ごしだと良かったんだが……)
師匠の脳裏にこびりついて離れないとある懸念。
それが先ほどの出来事によってますます濃くなってきた。
(クソ野郎に手袋渡したのはもしかすると失敗だったかもしれん。とは言え、渡さなかったら落っこちてたし、あの子を守るためにはやはり必要になる……)
守るための力として渡した物が逆効果になる可能性。
それがどうしても拭い切れなかった。
(信じるしかない……か。何処の馬の骨とも知れん男だが、あの子の目は信用に値する……はず)
ここまで思っておいて何だが、ほんわか錬金術士は特に何も考えずに彼をそばに置いているような気がしてきて、仄かに心配になってきた。身の回りの世話を率先してやってくれるから便利に使っているだけなのかも知れない。
「おいクソ野郎」
「はい、なんですか?」
かなり早足で歩いているが、しっかりついてきているお手伝いさんに向けて突飛なことを問う。
「あの子のことは好きか?」
「げふぅ!?」
突飛すぎて、変な声を上げながらすっ転ぶお手伝いさん。しかし師匠は目もくれずどんどん先へと歩いていく。
「ええとですね……質問の意味がよくわからないのですが……!?」
急いで追いついたはいいが、師匠の質問にはどう答えればいいのか考えてしまう。
「そのまんまの意味だ。好きか嫌いか、どっちだ」
「そりゃ嫌いではないですよ、命の恩人なわけですし……」
「テメーは助けてくれりゃ誰にでもホイホイついていくってのか?」
「それは……違います。最初はそうだったかもしれませんけど、今はそれだけじゃ——」
お手伝いさんの言葉は最後まで紡がれることはなかった。
二人の耳に、背筋を凍らせるような低く耳障りな唸り声が届いたのだ。
「チッ。どうやら縄張りに入っちまったよーだな」
師匠は光の玉の光量を上げ、視認できる範囲を広げると、そこには見覚えのあるシルエットが無数に。
前脚に痛々しい銃痕がある一回り大きいオオカミ。そしてその後ろに付き従うように子分のオオカミが控えている。
「あのオオカミ……」
お手伝いさんには見覚えがあった。先頭にいるオオカミの群れのボスにある銃痕はお手伝いさんが錬金術士を助けた時に付けたものに間違いない。
すでにオオカミは姿勢を低く保ち臨戦態勢。あの傷でまともに動けるとは思えないが、動物の身体能力と執念は底知れないものがある。
決して油断はできない。
「知り合いか?」
「まさか。顔見知り程度です」
不敵に笑いあい、臨戦態勢に。
この状況に陥って逃げるという選択肢はありえない。
お手伝いさんは手袋を、師匠は谷間から氷の意匠されたスプーンを取り出して、立ち向かう。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
238
-
-
52
-
-
310
-
-
49989
-
-
59
-
-
381
-
-
17
-
-
4
-
-
6
コメント