不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

088 「完成」

「うんとこしょっとこ……どっこいしょ〜」

 珍妙な掛け声に合わせて大きな釜の中身をかき混ぜる錬金術士。

 無言での作業だと、どうしても外に出て行った師匠やお手伝いさん、そしていぬねこの心配をしてしまってちっとも集中できないため、こうして無理やりにでも声を出している。

「どっこいさ〜よっこらさ〜」

 そんな心境にありながらも、皮肉ながら作業は順調。体に染み付いた長年の経験が功を奏して、思考が別の方向へ向いていたとしてもかき混ぜる手は自動化していた。

「もうちょっとで〜、か〜んせ〜いよ〜っと♪」

 師匠から言い渡された修行の課題ももう少しで終わりを迎える。指示をもらった時はやったこともないので上手くいくか雲行きが怪しかったが、爆発しっぱいする兆候は見られないし問題はなさそうだ。

 これが成功すれば、それだけで苦手であった武器の錬金が上手くいくようになると師匠は言っていたのだが、どうにも信じ切れていなかった。
 何しろ、いま彼女が錬金しているのは傍目にはただの大きなスプーンなのだから。

「できた〜!」

 ドロドロだった液体が徐々に形を成して行き、形状が固定されたところで中身の大きなスプーンを取り出す。

「う〜ん、イメージ通りではあるんだけど……なんか違う?」

 完成したそれをマジマジと眺めて眉根をひそめる錬金術士。
 彼女の脳内にあった完成図とは似ても似つかぬその姿に首を傾げてしまう。

「もっとこう……もふもふしてるはずだったんだけどな〜」

 まだ完成したばかりで、謎の溶液によってヌルヌルとテカっているそれは、形状としてはまさしく巨大なスプーン。しかし先ほどの言葉にはスプーンには似合わぬ言葉が混じっていた。

〝もふもふ〟と。

 あろうことか錬金術士は巨大なスプーンに大好きな〝もふもふ〟を追加しようとしていたのだ。
 が、謎の溶液を吸い取ってべっちゃりとしている。

「絞った方がいいのかな……?」

 少しでも水分を取り除いて乾かせば、もしかしたら理想の姿に近付くかもしれない。
 そう思った錬金術士は、思い切ってもふもふの部分を絞ってみた。

「お? おっ? お〜っ?」

 すると、面白いことにみるみるうちに面積が増えていき、思い描いた通りの姿へと変わる。
 まさに彼女が持つにふさわしい、もふもふの球体がくっついた身の丈ほどもあるスプーンが完成した。

「これだよコレコレ〜! 私はこれを求めてたんだよ〜!」

 錬金が上手くいったことに喜びの笑顔を浮かべて飛び跳ねる。

 師匠に言われた修行の課題はこれで終わった。本来なら真っ先に終わったと報告するべきなのだが、当の本人がお手伝いさんを引き連れて外出してしまい不在である。

「せっかくだし、私もいぬねこちゃん探すの手伝おうかな〜?」

 人探しに人手は多いに越したことはない。いぬねこを探すついでに師匠と合流できれば、練金が終わったことを報告もできる。

「そうと決まれば早速——」

 ……キュルルゥ。

「——の前に、適当に何か食べよっと〜」

 お手伝いさん達が大変なことになっている中で、実にのんきな錬金術士だった。

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