不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

特別編16 「あけましておめでとうございます。2年目」

 緊張感で張り詰めた空気がアトリエを支配する。

 お手伝いさんと錬金術士を挟んで複数枚のカードが無造作に散りばめられ、文字と絵が雑多に入り混じっている。
 呼吸も、心音も、瞬きさえ聞こえてきそうな静寂に、二人は四つん這いとなりカードを見つめる。
 穴が空きそうなほどの集中力が渦巻く中で、いぬねこがゆっくりと息を吸う。

 まるで時がゆっくりと進むかのような感覚に、お手伝いさんは支配された。

「あけ——」
「ハイッ!!」

 ——ッパンッ!

 小気味いい音が響き、一枚のカードが宙を舞う。

「あぁ〜?! またお手伝い君に取られた〜!」

 悔しい声を上げて頭を抱える錬金術士。

「これで5連続先取だね。これはこれは、意外な特技を見つけたんじゃないのかい? 読み手としては、最後まで読ませて欲しいものだけども」

 そそくさと弾き飛ばしてしまったカードを回収し、元の位置に戻るお手伝いさん。
 いぬねこの言う通り、ここまで彼女を圧倒できる遊びがあったとは知らなかった。

「なんだかんだで僕が持ちかけた勝負って負けてますからね。先生に勝てる勝負は無いのかもしれないと思ってましたが、この『かるた』って勝負なら勝てそうです!」

 二人が興じている勝負は「かるた」。
 いつも通りいぬねこが博識さを発揮して、錬金術士が指示通りに作ったもので遊んでいる。

「む〜……むしろどうしてそんなに早く取れるのか分からないんだけど……」
「そんなに難しい話じゃないですよ。配置を覚えて、声に耳を傾けるだけじゃないですか。覚えるだけなら先生の方が僕より得意でしょう」
「そうかもしれないけどさ〜」

 錬金術士は基本的に運動音痴で動きが緩慢としている。物覚えはいいほうだが、素早く動くことを要求される運動は不得手だった。

「いつだったか、怪鳥に襲われた時の俊敏さを発揮すればいいんじゃないですか?」
「あれはああいう状況じゃないとムリ〜」

 火事場の馬鹿力というやつか、命の危機に瀕して、さらにここぞというタイミングでないと錬金術士は覚醒しない。

「いぬねこちゃん、ちなみにさっきのはなんていうカードだったの〜? お手伝い君がバカみたいなスピードで取っちゃうから何取られたのか分からなくて」
「バカみたいって……」
「『あけましておめでとう』だね。かるたは新年にやるものらしいから、ちょうどいい内容だったのだけれど、バカみたいに早く取ってしまうから……」
「いぬねこちゃんまで!?」

 妙にトゲのある言い方をする二人に、お手伝いさんは泣きそうになったのだった。

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