不老少女とふわふわたあめ
092 「お手伝いのヴィオ」
お手伝いさんは、何もかもが消失した真っ暗な世界でひとり、ただ漂っていた。上も下も分からず、自分の姿かたちすら認識できない。
あるのは純粋なる闇と、僅かな意識のみ。
(僕は……ここは……なに?)
何かがあったような。大切で重要な、何か。こんなところで、ただジッとしている暇などなかったはず。
その、はず。
しかしその先から何も分からない。
(何かのために、何かをしようとしてた……気がする)
まるで粘度の高い水中で何かに手を伸ばそうとしているような、手の中にあるのに、指の隙間からこぼれ落ちていく、そんなもどかしさ。
手も足もハッキリとしないのに、彼は必死にもがこうとする。
(違う……誰かのために、何かをしようとしてたんだ)
僅かに残った意識で徐々に記憶を手繰り寄せていく。少しずつ鮮明になっていく自分の姿。
想いの強さは、人を形作る。
彼はすでに、仮初めの人格から「お手伝いさん」という個人を確立させていた。
(大切な人のために、何かをしようとしてた……?)
何も見えなかった情景に、仄かな光が宿る。ボヤけて全体像が上手く把握できないが、どうしてか懐かしさと愛おしさが彼の心を埋め尽くす。
ふわふわしているものが好きで、可愛いものが大好きで、甘いものが超好きで。
自分に甘くて、わがままで、自分勝手で、面倒くさがりで。
苦いものが嫌いで、仕事が嫌いで、運動が嫌いで、どうしようもない。
その全てをひっくるめて、彼女のことが好きだった。好きになっていた。
好きという感情が、彼の全体を形作った。
一緒に過ごした時間。決して長い時間とは言えないけれど、だからと言って短いわけでもない。あれからずっと一緒に、隣で過ごしてきたのだから。
(先生……そうだ、分かってきた。思い出してきた)
自分がやるべきこと。やりたいこと。
彼女のために動き、彼女の隣に居続ける。ずっと孤独と戦ってきた彼女の隣に居なくては。
こんなところで、油を売っている暇などない。さっさと用事を済ませて、錬金術士の元へ帰らないと。
(錬金術士……先生……ソーラ……)
ぼんやりと仄かに映っていた情景が鮮明になる。
満開の笑顔で笑う錬金術士が、そこにいた。
暗い世界を明るく照らし、彼に道を指し示す。虚無の世界に、彩りを与えていく。
(もう少しですから、あとちょっと、待っていてください……)
お手伝いさんは、見えない地面に足をつけて歩き出す。
今なら分かる。自分が何者で、どんな時間を過ごしてきたのか。あの暖かい日常へ戻るためなら、例え手足が引きちぎれようが、地面に喰らい付いてでも行ってやる。苦渋だろうが、土の味だろうが、いくらでも味わってやる。
帰るんだ。あの場所へ。
錬金術士が指し示してくれた道無き道をひたすら歩く。その先に、望む姿を求めて。
あるのは純粋なる闇と、僅かな意識のみ。
(僕は……ここは……なに?)
何かがあったような。大切で重要な、何か。こんなところで、ただジッとしている暇などなかったはず。
その、はず。
しかしその先から何も分からない。
(何かのために、何かをしようとしてた……気がする)
まるで粘度の高い水中で何かに手を伸ばそうとしているような、手の中にあるのに、指の隙間からこぼれ落ちていく、そんなもどかしさ。
手も足もハッキリとしないのに、彼は必死にもがこうとする。
(違う……誰かのために、何かをしようとしてたんだ)
僅かに残った意識で徐々に記憶を手繰り寄せていく。少しずつ鮮明になっていく自分の姿。
想いの強さは、人を形作る。
彼はすでに、仮初めの人格から「お手伝いさん」という個人を確立させていた。
(大切な人のために、何かをしようとしてた……?)
何も見えなかった情景に、仄かな光が宿る。ボヤけて全体像が上手く把握できないが、どうしてか懐かしさと愛おしさが彼の心を埋め尽くす。
ふわふわしているものが好きで、可愛いものが大好きで、甘いものが超好きで。
自分に甘くて、わがままで、自分勝手で、面倒くさがりで。
苦いものが嫌いで、仕事が嫌いで、運動が嫌いで、どうしようもない。
その全てをひっくるめて、彼女のことが好きだった。好きになっていた。
好きという感情が、彼の全体を形作った。
一緒に過ごした時間。決して長い時間とは言えないけれど、だからと言って短いわけでもない。あれからずっと一緒に、隣で過ごしてきたのだから。
(先生……そうだ、分かってきた。思い出してきた)
自分がやるべきこと。やりたいこと。
彼女のために動き、彼女の隣に居続ける。ずっと孤独と戦ってきた彼女の隣に居なくては。
こんなところで、油を売っている暇などない。さっさと用事を済ませて、錬金術士の元へ帰らないと。
(錬金術士……先生……ソーラ……)
ぼんやりと仄かに映っていた情景が鮮明になる。
満開の笑顔で笑う錬金術士が、そこにいた。
暗い世界を明るく照らし、彼に道を指し示す。虚無の世界に、彩りを与えていく。
(もう少しですから、あとちょっと、待っていてください……)
お手伝いさんは、見えない地面に足をつけて歩き出す。
今なら分かる。自分が何者で、どんな時間を過ごしてきたのか。あの暖かい日常へ戻るためなら、例え手足が引きちぎれようが、地面に喰らい付いてでも行ってやる。苦渋だろうが、土の味だろうが、いくらでも味わってやる。
帰るんだ。あの場所へ。
錬金術士が指し示してくれた道無き道をひたすら歩く。その先に、望む姿を求めて。
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