不老少女とふわふわたあめ

鶴亀七八

特別編17 「節分。2年目」

 いつものアトリエにて。
 犬にも猫にも見える動物、いぬねこが口を開く。

「君。今日は何の日か覚えているかい?」
「確か、『せつぶん』でしたよね。豆を投げたり太巻き食べたりしましたっけ?」

 それに答えたのは、お手伝いさんと呼ばれている少年。

 いぬねこが唐突に提案してきて、色々と苦労したのが去年のこと。
 せっかく掃除をしたのに豆が散らばって改めて掃除をしたり、太巻きも一から用意するはめになった。

「どうせ今年も『やろう!』とあの子が言い出すだろうから、早々に準備を始めておくといい」
「そうですね……そうします」

 いぬねこの言う「あの子」とは錬金術士。ついさっき仕事の練金を始めたばかりで、しばらくは周りの一切が頭に入らなくなるほど集中する。
 その隙を見計らって、準備を進めたらどうだろう、というのがいぬねこの提案。

 前もって先手を打っておくことは重要だ。
 お手伝いさんは、さっそく節分の準備を始めるのだった。


   ***


「よーし、終わった〜!」

 錬金術士が、仕事の終了を告げる歓喜の声を上げる。

「お疲れ様です先生。もう夕飯の準備できてますよ」
「お〜!? 今日はなんか……いつもと違うね〜?」

 テーブルに広げられている色とりどりの食材・・。それらを見やって、錬金術士は首を傾げた。

 去年要望のあった甘い玉子焼きから、魚の切り身や練り物などなどなど。
 どれもこれも下処理はされながらも、それがそのまま並べられていた。

 これらは全て、恵方巻きに巻く具材。

「先生……もしかして忘れてます?」
「ん? 今日って何かあったっけ〜?」
「『せつぶん』ですよ。去年豆投げたり太巻き食べたりしたじゃないですか」
「ぁあ〜!」

 どうやら忘れていたらしい。お手伝いさんに言われて思い出したように手を打つ錬金術士。

 いぬねこちゃん……「やろう!」って言うどころか忘れてたみたいなんですけど?

 ただでさえいつもより豪華な食材を奮発して準備したのだ。どうせならキッチリ覚えておいて欲しかったのに。何も言わなければ奮発せずに済んだのに。

 責めるような視線をいぬねこに送ると、ぷいっと顔をそらされた。

「……去年は完成品を用意しましたけど、今年は好きな具を選べるようにしてみました」

 恵方巻きは七種類の食材を巻き、決められた方角を向いて無言で食べ切る。そうすると願いが叶うと言われている。
 去年はいきなり喋ってしまったので、今年こそはと気合も充分。

「七福神という神様にちなんで、七種類選んでください」
「なるほどなるほど〜。じゃあ……これと、これと……」

 これとこれとこれとこれと。と。と。と。と。と。

「いやいやいや先生! 七種類ですよ!? それは『全種類』って言うんです!」
「え〜? だって仲間はずれはかわいそうじゃない?」
「だからって全部はちょっと……そもそも巻き切れないし!」

 相変わらず食い意地の張った錬金術士だった。

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