不老少女とふわふわたあめ
097 「普通なんかねーんだよ」
「その手袋には一つ弱点がある。強風だ」
お手伝いさんが群がるオオカミに向けて糸を放とうとした時、運悪く強風が吹いて攻撃が失敗してしまった場面を目撃していたからこその起点。
師匠が吹いた笛の正体は、ただ風を起こすだけのアイテム。暑い日に風を起こせれば便利だなぁと思って試しに作ってみた失敗作。風が強すぎて使い物にならなかったのだ。
そもそもアトリエが高所にあるためか、うだるような暑さにならなかった。
「なるほど……普通のアクセサリーじゃなかったんですね、それ」
谷間から取り出した大量のアイテムをあさって銀の笛を見つけ出し「これは何ですか?」と質問したのはお手伝いさんである。その時は忘れていたので適当に「ネックレスだ」と答えていた。
「バカかテメーは、今まで何を見てきたんだ。錬金術士が作る物に普通なんかねーんだよ」
今の今まで風を起こす笛だということを忘れていたが、お得意の強引さで誤魔化す。
「これで糸は封じたぜ」
一番の脅威である目に見えないほどの極細繊維だが、風を使えば難なく防げることが分かった。この笛さえあれば意図的に強風を吹かせることが可能。
しかし、これで手も足も出なくなったと思ったら大間違いだ。
「大先生……お忘れじゃありませんか? そのお腹の穴を」
霞のように消え失せて、かと思えば背後から貫かれていたあの動き。目で追えないのは極細繊維だけではない。彼の人間離れしたあの妙技もまたしかり。
「驚きも痛みも忘れるわけねーだろ。ついさっきやられたんだからな」
「それが何を意味するか……お分かりでしょう?」
糸など無くても十二分に相手取ることが出来るということ。
無論師匠もそれくらいは分かっている。
「ハン、アタシじゃ物足りねーって言いてーのか?」
苛立ちを表に出しながら、師匠は氷の意匠された巨大なスプーンを構える。
「いえいえまさかそんな。しっかりと相手させていただきますよ」
構えの姿勢をとった師匠を見て、同じく構える。
相手になろうがなるまいが、彼を錬金術士の元へ行かせるわけにはいかない。何としてもここで足止めをし、あわよくば拘束、さらに元の「お手伝いさん」へと戻せれば御の字だ。
(さぁ……来な)
無駄だとは分かりつつも、一瞬の瞬きすら惜しんで、一挙手一投足を見逃さぬよう注視する。
それでもやはり……ヴィオの動きは見切れなかった。
「残念です」
背後から聞こえてきた声に含まれた意味は、落胆だった。
確かに師匠の戦闘能力は、錬金術士としては異常なほどに高い。だが、生粋の戦闘狂を前にしては、足元にも及ばない。
振り返る余裕も、声を上げる間すら与えずに、彼の手刀が背面から心臓を抉り取らんと迫り来る。
「ーーガァアッ!?」
しかし、激痛に声を上げたのはヴィオ。
彼の手が心臓を掴み取ることはなく、あろうことか衣服を突き破ることすら出来ずに指が全てへし折られていた。
「硬度は充分だったな。いい実験になったぜ、サンキューな」
してやったりとほくそ笑む師匠。分の悪い危険な賭けだったが、とりあえず何とかなった。
人間の体を刺し貫くほどの勢いを防いだので、その分の衝撃で吹っ飛ばされたが、師匠に外傷はない。
「クソ……っ!」
右手を走り抜ける痛みに歯噛みするヴィオ。
彼女の身を守ったのは、電流を流すと硬化するあの布。
お手伝いさんが寒さを心配して渡してくれたものが彼女を守り、逆に彼を傷付けたのだった。
お手伝いさんが群がるオオカミに向けて糸を放とうとした時、運悪く強風が吹いて攻撃が失敗してしまった場面を目撃していたからこその起点。
師匠が吹いた笛の正体は、ただ風を起こすだけのアイテム。暑い日に風を起こせれば便利だなぁと思って試しに作ってみた失敗作。風が強すぎて使い物にならなかったのだ。
そもそもアトリエが高所にあるためか、うだるような暑さにならなかった。
「なるほど……普通のアクセサリーじゃなかったんですね、それ」
谷間から取り出した大量のアイテムをあさって銀の笛を見つけ出し「これは何ですか?」と質問したのはお手伝いさんである。その時は忘れていたので適当に「ネックレスだ」と答えていた。
「バカかテメーは、今まで何を見てきたんだ。錬金術士が作る物に普通なんかねーんだよ」
今の今まで風を起こす笛だということを忘れていたが、お得意の強引さで誤魔化す。
「これで糸は封じたぜ」
一番の脅威である目に見えないほどの極細繊維だが、風を使えば難なく防げることが分かった。この笛さえあれば意図的に強風を吹かせることが可能。
しかし、これで手も足も出なくなったと思ったら大間違いだ。
「大先生……お忘れじゃありませんか? そのお腹の穴を」
霞のように消え失せて、かと思えば背後から貫かれていたあの動き。目で追えないのは極細繊維だけではない。彼の人間離れしたあの妙技もまたしかり。
「驚きも痛みも忘れるわけねーだろ。ついさっきやられたんだからな」
「それが何を意味するか……お分かりでしょう?」
糸など無くても十二分に相手取ることが出来るということ。
無論師匠もそれくらいは分かっている。
「ハン、アタシじゃ物足りねーって言いてーのか?」
苛立ちを表に出しながら、師匠は氷の意匠された巨大なスプーンを構える。
「いえいえまさかそんな。しっかりと相手させていただきますよ」
構えの姿勢をとった師匠を見て、同じく構える。
相手になろうがなるまいが、彼を錬金術士の元へ行かせるわけにはいかない。何としてもここで足止めをし、あわよくば拘束、さらに元の「お手伝いさん」へと戻せれば御の字だ。
(さぁ……来な)
無駄だとは分かりつつも、一瞬の瞬きすら惜しんで、一挙手一投足を見逃さぬよう注視する。
それでもやはり……ヴィオの動きは見切れなかった。
「残念です」
背後から聞こえてきた声に含まれた意味は、落胆だった。
確かに師匠の戦闘能力は、錬金術士としては異常なほどに高い。だが、生粋の戦闘狂を前にしては、足元にも及ばない。
振り返る余裕も、声を上げる間すら与えずに、彼の手刀が背面から心臓を抉り取らんと迫り来る。
「ーーガァアッ!?」
しかし、激痛に声を上げたのはヴィオ。
彼の手が心臓を掴み取ることはなく、あろうことか衣服を突き破ることすら出来ずに指が全てへし折られていた。
「硬度は充分だったな。いい実験になったぜ、サンキューな」
してやったりとほくそ笑む師匠。分の悪い危険な賭けだったが、とりあえず何とかなった。
人間の体を刺し貫くほどの勢いを防いだので、その分の衝撃で吹っ飛ばされたが、師匠に外傷はない。
「クソ……っ!」
右手を走り抜ける痛みに歯噛みするヴィオ。
彼女の身を守ったのは、電流を流すと硬化するあの布。
お手伝いさんが寒さを心配して渡してくれたものが彼女を守り、逆に彼を傷付けたのだった。
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