異世界で始める人生改革 ~貴族編〜(公爵編→貴族編

ノベルバユーザー202613

第39話 それでも私達は……

俺は両親に負い目がある。

別に何か特別な意味があるわけじゃない。

簡単な話だ。

このレインと名付けられた人間の話だ。

恐らくではあるがこのレインという人間の身体、正確には命を宿らせたのは神様だ。
もっと簡単に言うと、本来出来るはずがなかった子供を神様が作り、お母様に宿らせたのでは?と思っている。

何故なら神様は俺に言った。
「野にはなった以上、生きてる間に私が手を出すことはない」と。

ならばそれは他の者にも適用されるのではないかと思っている。

わかってるこじつけだ、蜂の巣よりも穴だらけな理論だ。
だけど考えても仕方のない理論だからそれについては別にいい。

だが、産まれながらに両親を騙しているという罪悪感はある。
何もかも話すわけには絶対にいかない。

俺は死んでも前世の事を言うつもりはない。

産まれながらに秘密を持つ他人であるこどもというのはどうだろうか?
まさしく知らぬが仏だろう。
絶対に知らない方がいいだろう。

だけど言わない方は「しられなきゃいいんだよ」
と、ヘラヘラしていられるわけではない。

だから俺は家を出て行きたかった。
俺というこの家での目の上のコブを排除したかったのだ。
ただでさえ俺は両親にあの様な顔をさせているのだ。
もともとは赤の他人で神様の気分でここに送られてきた存在であるというだけのこの俺が家族の邪魔をしている。

だから出て行って、有名になってやろうと思った。
チートを駆使して、仲間を集めて、オリオンの名前を大陸に知らしめてやろうと思ったのだ。
俺のチートスキルならそれができると思ったからだ。

そして、家が危険な時に颯爽と現れ助けるのだ。
そして、危機が去り次第また颯爽とかえるのだ。
そんな裏方な人生を歩もうかと思っていた。
それで満足か?って?

満足さ。

第2夫人はきになるけど、俺は彼らが好きだ。
当たり前だ。
嫌いになんてなれるわけがなかった。
この俺に対してあんな顔をしてくれるんだから。
それで俺は十分救われる。
俺の為に悲しんでくれる人がいる、ただそれだけで俺は頑張れる。

やりきったって言えるのか?
言えないだろうな。
でも頑張ったって言えるさ。
ならそれでいい。

そう思ってたからこそ俺はこんな人生を選んだ。
そんな自己満足でしかないものを振りかざして逃げ出そうとした。
自分のダメなところを知る事を恐れて、両親を理解をしようとせず、自分の中で完結させようとしていた。

知らないままではいられない。

当然だ。

思い通りにいかないのが“人生”なのだから。




ゆっくりと目を開ける。

視界がぼやけて周りがよく見えない。

俺が動いたのに気付いてメイドが俺に顔を近づける。

何を言っているのかよく聞こえない。

ただなんとなく俺の名前を呼んでいる気がする。

そして急いで部屋を飛び出していった。

「あ''・・・」

(ぐっ・・・)

声を出そうとすると喉に痛みが走る。

(ああ、そうか・・・俺は気絶したのか)

両親の愛を知り、自分の愚かさに気付いてしまった瞬間、果てしない自分への激情が湧いたのだ。

取り敢えずエクスヒールを繰り返す事によって自分の喉を治す。
一瞬しかかからないので何度も繰り返す必要があるのだ。

そして深いため息をこぼす。

「はああああぁぁぁぁぁ〜〜〜・・・
これからどうしよう・・・」

生きてる意味がわからなくなった。
生きる活力が湧かなくなった。

このまま地獄に落ちる事こそが俺の正しい道なのではないかと思ってしまう。

そんな負のスパイラルに身を任せていると、どたどたという音とともに扉が勢いよく開かれ、お父様とお母様が入ってきた。

(ああ、何て事だ・・・)

俺は一体どんな顔をすればいいのだろう。
彼らは俺の事を本気で心配してくれていたのだろう。
そんな人達を裏切った俺はどうすればいいのだろう。

「レイン!!大丈夫なの!!??」

お母様のそんな悲鳴のような声を聞き、

「レイン!無事なのか!!??」

お父様のそんな安堵したかのような声を聞き、涙が出てきてしまった。
自分の失敗を突きつけられているような感覚だった。

そんな俺の涙を見て、お母様が抱きついてきた。

そして

「ゴメンなさいレイン。私が優柔不断なばっかりに貴方に魔法が使えない事を言えず辛い思いをさせてしまって・・・」

と言った。
(違う!
お母様は何も悪くない!
俺が・・・俺が最初から壁を作っていなければこんな事にはならなかった・・・)

「違うのです・・・
違うのですよお母様・・・
僕が、僕が全て悪いのです」

(当たり前だ。
両親はちゃんと親であった。
だけど俺は子供をやってはいなかった)

「いいえ、私がもっとしっかり貴方の事を見ていればこんな事にはならなかったのです」

(それも違う。
お母様は俺の事をちゃんと見ていた。
俺がそれに気付いて隠そうとしていただけだ)

「僕が、僕がもっとちゃんとお母様とお父様に歩み寄っていればこんな辛い目に合わせずに済んだのです。
僕が自分を隠し続けたばっかりにお母様にあの様な悲しい顔をさせ、お父様にも心配をかけました。
なんと愚かな男でしょう」

すると今まで黙っていたお父様が口を開いた。

「バカを言うな!五歳児のお前の一体どこが愚かだと言うのだ!
期待をかけすぎてしまった私達にこそ責任がある」

「頭の良さに年齢は関係ありません・・・
僕は・・・僕はお父様の期待を知りながら無視をし、そしてお母様からの心配を知りながら知らん顔をしていた。
これが愚かと言わず、なんと言うのでしょうか?
挙げ句の果てに誤解から事態を悪化させ、今の今迄家を出ていく事しか考えていなかったのです」

と白状した。

「何を言っているのだレイン?
誤解とはなんだ?」

当然の疑問だろう。

「僕は、僕はお父様とお母様が僕のスキルに対して負い目がある様な態度だった事に気付いていたのです」

すると2人共体を硬くした。
それを無視して俺は話を続ける。

「だけど僕は、それは攻撃魔法が使えない事に対してだとばかり思っていたのです」

今考えるとなんてアホらしい考え方だろう。
この世界では攻撃魔法が使えない事は悪い事なのかな?という曖昧な考えで納得してしまっていた。

「ですけど、違った・・・
お父様達は僕に魔法才能がない事に対して悩んでいたという事に昨日気付いたのです」

というとお母様が

「ごめんなさい、本当にごめんなさい!
もっと早く貴方にこの事を伝えていれば・・・」

「違うのです!僕にはちゃんと魔法の才能があったのです!僕があと少しでもお母様を信じていれば・・・」

「な、何を言っておるのだレイン。
お前には・・・お前には魔法の才能は一つもないのだぞ」

そして意を決してスキルについて話す。

「レア度9のスキル魔導王」

「な、なに・・・レ、レア度9、だと・・・」

「能力は全魔法才能の使用です」

「「・・・」」

驚きすぎて固まってしまった。

「僕は今の今迄お父様達がこの事について知っていると思っていたのです。
ですけど今さっき侍女に聞いて初めて知らない事を知りました。
なんて、なんて愚かなんだ!!」

思い出すと自分自身にふつふつと怒りが湧いてくる。

「知ろうと思えばいくらでもチャンスはあったはずだ!!
なのになんでその程度の歩み寄りをしなかったんだ!!
そんな事をするために俺は・・・」

天国行きを諦めてまでこの世界に転生したわけではない。
前世の納得できない人生をまた繰り返すのか・・・
ふとそんな考えが頭をよぎる。

「死にたい・・・」

この世界に来てから一度も口にしていない前世の口癖が出た。
その瞬間、

バチーン!!

「!!??」

突然の事で訳がわからなかった。

目の前でお母様が右手が左肩の辺りにある。
どうやら頬を叩かれたらしい。
初めてお母様に殴られた。
あれだけ心配をかけても抱きしめるだけだったのに。

「バカを言わないで!!
貴方が死んだら私たちがどれだけ悲しむと思っているの!!
貴方は失敗したかもしれない。
早くいってくれていればこんな事にならなかったかもしれないわ。
だけど!だけどその程度の失敗は貴方が死んでいい理由にはならないわよ!
一度失敗したのならまた頑張ればいいじゃない!
貴方にはまだ次があるのだから」

「あ・・・僕は、僕は・・・」

既に何十回と失敗している。
そう言おうとした。

「何度失敗してもいい!他の誰が許さなくても私達はそれを許すわ!
だから・・・だから死んで全て終わらせて楽になろうだなんてしないで!!
疲れたなら話を聞いてあげるから!
挫けそうなら励ましてあげるから!
倒れそうなら支えてあげるから!
貴方が死ぬ最後まで、ちゃんと頑張りなさい!!」

それを聞いて涙が止まらなくなった。
前世でそんな事を言ってくれる人なんていなかった。
前世の俺の両親は死にたいというとなら死ねば?と俺に言った。
その言葉がどれだけ俺の心を抉ったか・・・
死なないで、生きて欲しい。
俺にそう言ってくれる人がいた。

「お母様・・・おがあざまーーーーゴベンナサイ!!!
ゴベンナザイおがあざまーーー!!!」

「レイン、愛しているわ」

「私もお前の事を誰よりも愛しているぞ」

「お父ザマ、オカアザマ、アリガトウ・・・アリガドウゴジャイマズ!!!」

俺はその日子供のように泣いた。

肉体年齢5歳。実年齢26歳。
その日初めて俺は親の愛と偉大さを知った。


コメント

  • ノベルバユーザー402458

    しょうもな

    0
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