異世界で始める人生改革 ~貴族編〜(公爵編→貴族編

ノベルバユーザー202613

第62話 戦略家と戦術家

  何とは無しにコウのステータスを神眼で見ていたら、帝国から200隻の輸送船が出港したと連絡があった。

「……?どういう事?」

  コウのステータス移動を神眼で見て、手元の暗号表と照らし合わせたらそう送られてきた。

因みに暗号表は適当である。
紙を二枚用意し、後は想定できる全ての事を暗号にするのだ。

例えばSTR3、VIT3動かしたら敵増援、AGIの2桁目を100の位、1桁目を10の位にして船の数を知らされたみたいに。
其処に法則性は無い。
適当にステータス移動表をあれこれ書いて渡しただけだ。

「どうしました?」

とコウが聞いてくる。

  「ん〜、今ステータス移動がありましたよね?」
「はい。感覚的にわかるくらいで細かい数はわかりませんが……」
「送られてきた内容がちょっとヤバいんだよなぁ」
「はぁ……、なんと送られてきたのですか?」
「帝国が更に200隻の輸送船を出したんだそうですよ」
「え?!一大事じゃないですか!
早く知らせませんと」
「まあまあ落ち着きなさいな。
取り敢えずこの表見てもう一度送るよう言ってくださいな」
「わかりました」

  それから暫くしてまた返事が返ってきた。
表を見ながらやっぱり間違いないらしい、という事がわかった。

  「間違いないようですね。艦長に伝えてきましょう」
「はい」

それから2人で艦長室まで行き、3陣目について話す。

「輸送船……ですか」

  そんな余裕がまだあるのか、と絶句している。
数もそうだがこうなると第二陣が訓練を受けた水軍である可能性すら出てきたからだ。
第二陣は輸送船とは言われなかった事をレインは思い出していた。

戦いは一分一秒を争うため、海戦用の訓練を受けた水軍と陸用の訓練を受けた兵では動きに誤差がある。

もちろん陸用の兵とて精鋭だ。
やれと言われれば体が勝手に動くだろう。

だが、やれと言われなければ動けない陸兵と予定外が容易く起こりうる海上では緊急事態に体が勝手に動く海兵ではその対応の早さが天と地ほども違う。

全員が水軍だったとしてもレインがいれば負けはしない。だが被害は甚大なものとなる。

「不味いですな……」
とリベルトが呟く。

「それで?作戦の方はどうなさるので?」
とあくまで落ち着いて艦長が聞く。

「続行、だそうです」

「承りました」
とだけでいう。

実のところ彼もそれしかない、とわかっていたのだ。

ポルネシアは現在、王族派と貴族派がある。
圧倒的に王族派の方が強いのだが、だからと言って貴族派を蔑ろにしていいわけがない。
レインは知らないが、今回水軍を出すのに王族派、主に王様とロンドはかなり無理をしている。
特にレインが乗る別働隊は貴族派には後伝えのため戦果を残して来なければ貴族派はこれぞとばかりに王族派を責め立てるだろう事は容易く予想ができる。

このことを艦長は知っていた。

心の底では今なおこの作戦には疑問が残っている。予想が外れた、なら帰るべきでは?もしくはここから反転、ポルネシア近郊にいる水軍を挟み撃ちにすべきでは?と思ってはいる。

だが彼は貴族であり軍人でもある。

  そもそも彼の実家が王族派だ。
貴族である部分が、今回の作戦がどれ程重要か、またどれだけ引けない戦いかは十分理解しているのだ。

  この水軍の艦隊司令長官を務めているが戦術家であって戦略家ではない。

  戦略家とは戦争、つまり戦争全体の大局を考え、自国にとって最善の選択をする者の事である。
一方、戦術家とは戦闘、つまり戦いの一つ一つを勝利に導く者の事を言う。
よくある〜の戦いでの勝利とは一つ一つはあくまで戦術的勝利であり、戦術的勝利を積み上げる事で結果的に戦略的勝利へと繋がる。

例えば10万対3万の戦いがあったとして3万の軍勢が敵の5万の軍勢を打ち破ったとする。
だが別働隊として動いた5万の軍勢が敵の王城を落とし3万の方の軍勢の国が滅んだとする。

これは落とされた方の戦術的勝利、戦略的敗北となる。

  彼は残念ながら大局を左右できる程の実力を持った司令官では決してない。
だから軍人として国がやれといえばやりざるを得ない。
仕事の一つが上司を信じる事である艦長は、この作戦は成功すると前に進むしかないのだ。

「よろしくお願いします」

そうとだけ言う。
覚悟を決めた人間にあれこれ言うのはやぶ蛇だと知ったばかりなのでレインは口数少なくそう告げる。

「では、敵の狙いについて我々だけでも少しお話しませんか?」

とリベルトが聞いてくる。

「はい、是非」

そういい、話そうとした時だった。

外から小さくバサッ、バサッという音が聞こえ、索敵を行っていた翼人族が帰ってきた。
予定外の帰還にこの場にいる全員の顔が険しくなる。

そして案の上、索敵を行っていた翼人族の1人が部屋に入ってきた。

「失礼します!艦長!お伝えしたいことが御座います!」

「敵が見つかったのか!?」

「ハッ!ここから北西に60海里ほど先に帝国の軍団300隻を発見致しました!」

(60海里か……およそ108キロほど先だな……)

「それで乗っている軍はどの様だった?」

「申し訳ありません。辺りは既に暗く光魔法のダークビュアを持ってしても旗を幾つか確認して来るのが精一杯でした。ですが人影は動いておりましたが此方が接近していることに気づいている様子はありません」

「そうか……。では、予定通り、彼等の進路上に霧を発生させます。
レイン様、準備をよろしくお願いします」

「わかりました」
と言ってもMPはほぼ満タンだ。
体の方は全く異常がない。

  だがこれから目の前で殺し合いが始まる。
その事実がレインを震えさせる。

(武者震い、これは武者震い)
と自分に言い聞かせる。
今まではなるべく考えない様にして目を逸らしていたのだがもう考えないわけにはいかない。
来る前に既に作戦は決めていたし、レイン自身が戦うわけではない。

「レイン様、震えてますね」

と空気を読まずにコウが指摘して来る。

「そこ指摘しないでくださいよ」

「お気持ちは分かりますが」

よく見るとコウも震えていた。

「レイン様と違って僕は何もしないのに震えていますから大丈夫ですよ」

「……変な気の回し方はしなくてもいいですよ」

「そうでしたか」

と2人で黙る。

それからしばらくして呼び出しがかかる。

「レイン様、そろそろお願いします」

「わかりました」

そういい部屋を出る。

  そしてまた帝国の船の進路上と思われる海路に濃霧を発生させる。

  帝国の第二陣がレイン達の予想通りなら彼らは特に急ぐ必要はない。
  確かに予想より兵数が少なくはあるが、それでもポルネシア水軍よりもはるかに多い。
船対船だと仮に性能が同じだとすれば、やはり数の差は無視できない。
  更にいえば大国の帝国に小国のポルネシア側から仕掛けるとは夢にも思わないだろう。

今まで以上のMPを使って発生させた濃い霧だ。
あらゆる作戦は結局のところ運の要素が入る。

  今回の作戦も結局のところ運に頼っている部分が少なからずある。
帝国がもしこの霧を必要以上に警戒したら最終的に力押しになる。

「では、敵が来るまで待ちますか」

霧を発生させたあと、MPを回復させた後、マントを着て霧の中に入る。

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