異世界で始める人生改革 ~貴族編〜(公爵編→貴族編

ノベルバユーザー202613

第73話 ローゼ 後編

かくしてローゼの学校生活は大幅に改善された。壊れたものや汚れた物は全部新品になった。校内にも彼女はオリオン家に守られていると言う噂が立ち、彼女を表立って馬鹿にする者はいなくなったのである。

だが友達も出来なかった。だけどローゼにはどうでもいいことだった。
そもそも彼女は基本的に一人を好むため、休み時間静かに安心して本が読めて、授業中安心して授業を受けれる環境があればそれ以上を求めるつもりはなかった。

ロンドに助けられるまでは。

もう一度言うがローゼは鈍臭い。
だが決して鈍感ではない。
顔に出さないだけで感情は普通の女の子だ。
そんな彼女が死にたくなっていた時、壊れそうな時に前に立ち塞がって守ってくれたロンドを好きになるのは自明の理であろう。

どんな本のどれだけ興味をひく内容よりもロンドの事が知りたくなった。
だから彼女はロンドを調べた。
ローゼの言葉足らずな説明で、他の生徒達に聞いてまわった。
ロンドの情報を何でも集めた。

だが、ロンドの事を調べている最中、一つ彼女にとって聞き捨てならない噂があった。

ロンドがソフィアを魔法才能欲しさに無理やり自分の手元に置いている。

そんな根も葉もない噂だ。

人は信じたい事を真実であると思い込む事がある。ローゼは歓喜した。ローゼは、その何一つ確たる証拠たり得ない噂を真実だと疑わなかった。

ローゼはこの学校では決して珍しくないデュオの魔導師だが、他の生徒にはない希少な水魔法強化の上級スキルがあった。
ソフィアはトリオだが、ローゼはその差をスキルで補える。
彼の隣に立つには十分な才能だろう。
そう彼女は確信し、早速ロンドの下に向かった。
ローゼの顔には心なしか笑顔があった。ソフィアが嫌々ロンドの横にいるのであれば喜んで代わってくれるだろう。そうすれば彼の横に居られる。それがローゼにとって何よりも嬉しかった。
そんな弾むような気持ちのままロンドを捜し、見つけた。
すぐに声をかけるのもよくないと思い、陰から彼を観察し、タイミングを待った。

そして、その時初めてソフィアの顔を見た。
最初、教室であった時はすぐに顔を伏せてしまったし、その後すぐロンドに助けられたので顔を確認していなかった。
情報を集める段階で、廊下ですれ違った可能性はあるが彼女の頭にはロンドの事しかなく、それ以外の人の顔は全く記憶にない。

そんなローゼが初めてソフィアの顔をちゃんと見た。
そしてその美しさに驚愕した。
自分を救ってくれた時のロンドとはまた違った輝きがソフィアにはあった。美しい、素直にそう思える女性だった。

それから、ロンドが戯けてソフィアが笑った。それを見て更に落ち込んだ。
ロンドの事が大好きになってしまったローゼだからわかる。本気で恋した乙女だからわかる。
ソフィアのあの笑顔は。
ロンドに向けるあの愛しむ笑顔は。
決して偽物ではないと。

故に、あの2人は好きな者同士なのだとローゼは確信してしまった。

よく考えれば、いや、よく考えなくったってあのロンドが女子生徒を無理やり側に置くなんてする訳がなかった。そんな馬鹿なことがあるはずがなかった。

ソフィアは好きであの場にいる。
だとしたら、勝てる訳がないと思った。
ローゼは自分の顔が仏頂面である事くらいわかっていた。
そんなローゼの顔とは比べ物にならないくらい天真爛漫に輝く笑顔を振りまくソフィアに勝てる気がしなかったからだ。

ローゼは失恋した。幼い少女の淡い恋は一瞬にして砕け散ってしまったのだ。
背中を見せてその光景から逃げる最中、
「あら?」
という声が聞こえた気がした。
それからローゼは、寮に帰り、弁償してもらった綺麗な布団の中にうずくまり、そのまま眠ってしまった。

次の日、彼女は失恋のショックを抱えたまま学校に行った。

そのままのどんよりした気分で授業を受けた。
もちろん授業の内容など微塵も頭に入ってこない。
やっと授業が終わったローゼはトボトボと家までの廊下を歩く。

すると、ドンと何かにぶつかり転んでしまう。

「ん?あら?大丈夫ですの?」

と、ぶつかったと思われる女子生徒が手を差し伸べてくる。
ローゼにぶつかったはずなのに平然としている事に疑問を持ちながらその手を取り、立ち上がる。そして、

「ごめんなさい」
昔なら絶対に出なかった言葉が口から出た。
謝ると向こうの女子も
「いえ、構いませんわ。そちらこそお怪我はございませんの?」
と言ってきた。
何もないのなら早く帰って布団に包まっていたいローゼは
「大丈夫」
と頷き、足早にこの場を立ち去ろうとする。
だが、
「ちょっとお待ちなさいな」
と、その女生徒に腕を掴まれてしまう。そして、ローゼが振り向くと、顔をジッと見られる。
そして、何か思い出したような顔で、
「あら?何処かで見た顔ね〜?
あー、もしかして一週間前にロンドが助けた子ですの?」
と、言った。

ズキッとローゼの胸が痛む。
丁度昨日失恋したばかりなのだ。
ここしばらくは思い出させないで欲しかった。

「そう」
とだけ伝え、立ち去ろうとするが、腕を強く掴まれていて動けない。
「離して」
そうお願いする。

「うーん。何かお困りなお顔をしておりますわね」

とズバリ言われる。どきりとしているローゼにその女生徒は更に、
「私の名前はリセドラ。何かお困りなら相談に乗りますわよ?」
と踏み込んでくる。

正直鬱陶しい。
普段から人と話さないローゼは、人と話すのが苦手だ。
こんな風にグイグイ来られると逃げ出したくなる。
しかもいつにも増して今の気分で最悪だ。

「別にいい」
怒りすら込めてそう言った。
なのだが、
「貴女の悩み当ててみますわよ?
貴女はロンドさんとソフィーちゃんの関係に悩んでいらっしゃる。
どう?あちゃ、あちゃって……」

噛んだ。
「噛んだ」
リセドラは顔を真っ赤にして怒る。

「う、うるさいですわ!と、とにかく!貴女はロンドの事が好きなのでしょう?それで昨日こちらを見ていたのでしょう!?」

と、さっきまでの余裕は無くなり、投げやりな感じで騒ぐ。

「見ていた?」
と、今度はローゼから、いかにもローゼの顔から察しましたわ、という顔だったリセドラにズバリと言い放つ。
「そうですわ!ええ、見ていましたわ!何か問題でも?!」
問題大有りだ。
なんて恥ずかしい女なのだろうか、そうローゼは思った。
「別に。もういい?」
もう十分だろう?といった感じで聞く。

「よくないですわよ!何も解決してませんわ!貴女の悩みをお聞かせくださる?」
と真っ赤な顔で凄んでくる。

「しつこい」
とその顔を押し返す。
「な、なんですの?せっかくこの私が話を聞いてあげると申しているのに!」
とリセドラは逆にローゼの手を押し戻す。するとローゼも
「親切の押し売り」
と、ローゼは今のリセドラをそう評する。
「なっ…、それの何がいけませんの?ロンドが助けた貴女がそんな沈んだ顔をしているのが私は許せない。だから貴女の問題を解決したい。何かおかしいかしら?」

フゥ〜と言い切った顔をした。

「特に……」
ロンドを引き合いに出されてはローゼも困る。
普通は気にしない。
ロンドに恋しているローゼの脳内では、わざわざ助けてもらったのに不機嫌である、というのは彼に対して失礼な気がしてくる。
だから、
「わかった」
と仕方なく了承してしまったのだった。

〜〜〜

「ふ〜ん…」

ローゼの悩みを聞いたリセドラの第一声がそれだった。
「む……」
真剣な話をしたのにあっさりとした気の無い返事をされ少しムッとしてしまう。リセドラもそれに気付き、顔を真面目な顔に変える。
「ああ、ごめんなさいね。確かにロンドさんとソフィーちゃんの中を割く事はこの私が死んでも許しませんわ。だけど、それほど気にする必要はないと思いますわ」
と言った。
「え……」
何で?とローゼは疑問に思った。

「ロンドほどの貴族なら妻の数は1人というのは不可能ですわ。
ロンドがそれを望んでも周りがそれを許しませんわ。
なら、その複数の妻の1人に貴女がなればいいだけですわ」
とあっさり言った。
「なるほど……」
ローゼは忘れていた。高位の貴族で妻が1人しか居ないというのはそうそうない。
オリオン家ほどの家柄なら妻は間違いなく複数娶るだろう。
自分もそのうちの1人になれればいい。
「解決した。ありがとう」
全く期待していなかったのにまさかの解決をしてくれたリセドラに素直に感謝を述べる。
「いえ、構いませんわ!解決したのでしたら私も嬉しいですわ。
では私はこれで」
と言ってリセドラはあっさりと立ち去ろうとする。
それをローゼは慌てて呼び止める。
「待って。なぜ貴女は私とロンドをくっつけようとするの?」
ロンドとソフィアの中に自分を入れようとするリセドラの考えがローゼにはわからなかった。

「それは、彼の奥さんが1人では終われないから、ですわ。
第1夫人はソフィーちゃんで決まりですわね。でも、2人目以降はもしかしたらロンドさんとソフィーちゃんの敵かもしれない。
ロンドさんに助けられた貴女なら少なくともロンドさんの損になるような事はなさらないでしょう?
私はあの2人の幸せを望んでいますの。ソフィーちゃんは良く思わないでしょうけど」

そう言ってリセドラはその場を立ち去った。

「そう」
彼女の後ろ姿にそう呟いた。そしてまた、
「そう」
と自分に呟いた。

それからローゼは努力した。
男爵家の三女という立場を覆して、数多くの女性の中からロンドの妻の1人として選ばれるように頑張った。
それは料理を上手に作れるようになったり、化粧を学ぶなどの女性を磨くなどではない。
ソフィアに被る才能では決して勝てないと思ってしまったからだ。
故に家庭面の方は必要最低限のみで終わらせた。
その代わりに、ローゼにはスキルまで上乗せされる水の魔法才能レベルをあげる努力をした。

ロンドも、というかあの5人組はやはりローゼの同じクラスだった。
だからローゼはロンドよりも後ろの席に座り、彼を後ろからチラチラと見ていた。
ロンドはといえば、ローゼを助けたあの日から授業を受けるようになった。
聞いたところ(調べたところ)によると冒険者をやっているのが実家にバレて大目玉を受けたそうだ。
「あんな怒るかよ普通……」
とぶつくさ言っていたが、相当絞られたらしくロンドは不真面目ながら授業を聞いていた。
それをローゼは後ろからずっと見ているだけだったが、それでも彼女は幸せだった。

ロンド達は気付いていたが、リセドラがなんとか誤魔化し、事無きを得た。
来る日も来る日もローゼは水魔法と自身のレベルを上げる傍でロンドの事を見続けた。

そんな日々が1年以上続いたある日、事件は起きた。

たくさんクラスがあるところは別だが、魔法学科は1クラスしかない為クラス替えがない。
故に3年になってもロンドとローゼは同じクラスだった。結果的にローゼを虐めた少女達とも同じクラスになるがローゼは全く気にしなかった。ロンドに恋をしている彼女にとってロンドとその仲間達以外は等しく興味がなかったからだ。
その日もいつも通りローゼはロンドの後ろ姿を見ていた。
ロンドは何時ものように愚痴を垂れながらも授業を受けていた。

だがその日の授業の最中にロンドは、

「あ?」

と少しドスの効いた声を出した。
次の瞬間、バッと立ち上がる。

突然のロンドの変化にクラス中が静かに彼の動向を伺う。
そんな中、ロンドが、
「そんな…馬鹿な……」
と呟き、凄い勢いで教室を出て行ってしまった。
その後すぐ、
「ロンド!!」
とソフィアがロンドの後を追って飛び出してしまった。
ローゼは動けなかった。突然の出来事に微動だに出来なかった。ただただ惚けていた。あのロンドが、ローゼをカッコ良く助けてくれたロンドが、あんな悲痛の声を上げるなんて思ってもみなかったからだ。

そして、次の日、ロンドとソフィアは学校に来なかった。次の日もその次の日も、その更に次の日もあの2人は学校に来なかった。
リセドラに聞いてもわからないの一点張りだった。

そしてそんな日が2週間ほど経ったある日、ローゼは知った。

2週間前のあの日、ロンドの父親が戦争で亡くなったという事を。

親類が戦争に行っていたとある貴族がその噂を流すまでローゼは何も知らなかった。

そしてローゼは知る。

自分ではロンドの隣には居られないという事を。

自分が一番辛い時、手を差し伸べて助けてくれたのはロンドだった。
だけどロンドが一番辛い時、ローゼは隣にいられなかった。
恐らく、今、彼の隣にはソフィアがいるのであろう。
彼が狂いそうな時、隣で必死に抑えつけ、励ましているのはソフィアなのだ。
自分ではない。

その事に気付いたローゼは悟った。

自分はなんて身勝手な女だったのだろうか、と。
借りた恩は返さなくてはならないとローゼは思っていた。
夫婦というのは互いに支え合うものだとローゼは思っていた。

ローゼはロンドが一番辛い時、支える事ができなかった。あの時、自分は少しも動けなかった。
そんな自分にロンドの横にいる資格なんてあるのだろうか?

ない。

ローゼはそう結論付けた。

その数日後、ロンドとソフィアは学校に来た。
2人とも少しやつれていたが、周りの人達に、
「大丈夫」
と告げた。
何か晴れ晴れとした笑顔でそう答えるロンドと、それを笑顔で見守るソフィアを見てローゼは諦めた。

その日を境にローゼはロンドの嫁になろうとする事をやめた。
ロンドを見続ける事をやめた。
ロンドの事を好きで居続けたが、その気持ちを押し殺してローゼは結局その後、学校を卒業するまでロンドと1度も話をしなかった。

それから月日は経ち、学校を卒業後、ローゼは国の宮廷魔術師になった。宮廷魔術師筆頭のエリルほどではないにしろ、心を凍らせ、努力し続けた彼女は高位の水魔法が使えるようになり、たちまち有名になった。

そんな彼女にとあるお見合いの話が来た。
これまでも幾度となくあったお見合いを断り続けたローゼだったがその相手を聞いて凍っていた心が動き出す。

その相手とはロンド・デュク・ド・オリオン。オリオン家現当主からだった。

ローゼがその頼みを断る事が出来なかったのは仕方のないことだろう。
あの日から心を凍らせ、自身のレベル上げと水魔法才能のレベル上げ、更に医療に関する知識を貪欲に貪ったローゼだったが、ロンドを忘れた事は1日たりとてなかったのだから。

久しぶりに見たロンドは背も高くなり、子供っぽさも抜けてますますカッコ良くなっていた。
そして、その顔には穏やかな笑顔があった。
そんなロンドが私を見てこう言った。

「やあ、ローゼ。久しぶりだな」

5年以上経った今でもロンドはローゼの事を覚えていた。
そんな単純な事実がローゼは嬉しかった。
そんなローゼに、ロンドは、
「もしローゼが嫌でなければ私の近くで力を貸してもらえないだろうか?」
と、真摯に頼まれた。
ローゼは、一瞬頷きそうになった。
だがしかし、あの時動けなかった自分がロンドの近くで力になれるだろうか?、と言うわだかまりが今なお心に残っていた。
だから、
「ごめんなさい。私では、貴方の力になれない」
と一緒に居たい想いを隠し、そう告げた。
「う〜む、そうか……。わかった。わざわざすまなかったな」
と、ロンドは諦めた。

それから暫くして結局、学校で一人も友達ができなかったローゼに訪問客が現れた。

有名人でかつ有能であるローゼは例え貴族であっても安易に会う事はできない。
それをあっさり通したという事はそれなりの身分の人間であるという事だ。

名前を聞いてみると、リセドラだった。

ローゼはすぐにロンドの件だろうと察した。
追い返そうかとも思ったのだが、彼女にも一応恩がある。失敗してしまったが感謝はしている。その恩人を話も聞かずに追い返すのは、恩を仇で返す行為だろうと思い、リセドラを通した。

「お久しぶり、ローゼさん。
お噂はかねがね聴いておりますわ。
凄い速さで出世しているようですわね」

と、昔とあまり変わらない口調で言ってきた。
そんなリセドラに対して
「久しぶり。それで何の用?」
とあっさりと本題に入ろうとする。
そんなローゼをリセドラは落ち着いた態度で、
「そんな急かさなくてもいいではありませんの?
まあいいですわ。貴女も忙しいのでしょうし。
では、早速本題ですけど、貴女、ロンドさんの夫人になることを断ったそうね?
なじぇ…。コホン。何故かしら?」
途中で噛んだ事を誤魔化しながら彼女はそう聞いた。
「噛んだ」
だがしかしそれを逃さないローゼであった。
リセドラは顔を真っ赤にして、
「いいではありませんの!
で!なんで彼の夫人になることを断ったのですの?」
と怒鳴った。
誤魔化せなかったか、と一度溜息をつき、ローゼは、
「私には彼の隣に相応しくないと思った」
と簡単に告げた。
するとリセドラは、はあ〜と溜息をつき、
「隣に相応しくないって貴女……。いえ、まあそれは置いておきましょう。
で、貴女はそれでいいんですの?
そんな人生で満足ですの?」
と聞いてくる。
いい訳がない。
これで満足か、と聞かれればそんな訳がない。
だけど、
「だけど、私じゃ……」
彼を助けられない。そう言おうとした時、
「これでもしロンドに何かあった時、貴女はどう思うかしら?」
と静かに呟いた。目を見開くローゼを置いて、
「私はその場にいなかったのだから私には関係がない、そう言うのかしら?
けど、もしかしたら凄腕の宮廷魔術師である貴女がその場にいればなんとかなったかもしれないじゃない?
そうは思わなくて?」
と聞いてくる。
「それは結果論。意味は」
と言い返そうとすると、
「意味はありましてよ?貴女はそこらの有象無象とは違う。国中の凄腕が集まる宮廷魔術師の一員で若くしてその名が広まるほど。
それが何かあった時近くにいるのと居ないのとでは、その場にいる人間の生存率は大きく変わるはずですわよ」
と更に重ねていってくる。
ローゼは狼狽えてしまった。
なんとか絞り出した言葉が、
「だけど、私はその場に居ないかもしれない」
だった。
あの時と同じように私はロンドの近くにいられないかもしれない、と忌避しているのだ。
それに対してリセドラは
「なら仕方がないではありませんの居なかったのでしたらどうしようもありませんわ」
とあっさり言った。
だけど、と続け、
「この場に残ってロンドに火急の事態があった時貴女が彼を救える可能性は限りなく低いですわ。
でも、ロンドの横にいれば、オリオン家にいれば彼を救える可能性はずっと高くなる。
横にいる時間も増えますからね。
その可能性にかける事は無駄かしら?
それに多分、貴女にしかできない事もあると思いましてよ?
貴女の事は多少調べさせていただいたのだけれど、貴女、お見合いなどは全て断っているそうね?
誰か良い人は居なかったのかしら?」
いない。
突然のリセドラの方向転換に動揺したが自然と頭にそう浮かんだ。
口には出していないのにリセドラはわかったように先に続ける。
「宮廷魔術師に何か思い入れは?」
ない。
「居心地が良いからここにいたいとかは?」
ない。寧ろ貴族が自分を嫁にしようと事あるごとにやってくるので悪い。
「ここに誰か大切な人は?」
いない。
「貴女の今一番守りたい人は?」
ロンド。
自然とそう浮かんだ。
「なら決まりですわね。
では、私はこれで失礼致しますわ。
あ、そうそう、私、既に結婚しておりましたの。
嫁ぎ先はハドレ侯爵家。
オリオン領のすぐ横にあるハドレ領の領主よ。
リセドラ・マーキュアイズ・ド・ハドレ。それが今の私の名前よ。
何かあればいらっしゃいな。相談に乗ってさしあけっ……」

最後に噛んだ。

そして無言のまま立ち上がり帰ろうとする。ローゼは慌てて、
「待って」
と呼び止める。そして
「ありがとう」
と感謝する。
「感謝なんてしなくてもよろしくてよ?私だって貴女を利用している事は否定出来ませんの。
だから、感謝する必要はありませんわ」
「でも、ありがとう」
これがローゼの精一杯だった。
「ふん。何かあればハドレ城に来なさい。話くらいは聞いて差し上げますわ」
そう告げて彼女は去っていった。

そしてローゼは早速ロンドに連絡して夫人になる事を了承する事を伝え、晴れてロンドの第4夫人となった。

今度こそ何があっても、そしてどんな事をしてでもロンドを守ってみせると胸に刻んで。

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