超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

第二のギフト

 テンの背後に現れたのは十字架。
 いや、輝く姿に惑わされた。 
 あれは剣だ。
 ――――十字架のような剣。

 そして、アレは魔法とは違う。

 魔力という体内で生産されるエネルギー、あるいは外部から取り入れたエネルギー。
 それらを変換して物理現象を起こすのが魔法だ。
 しかし、テンの『ギフト』には、その手順が存在していない。
 何らかのエネルギーを対価に現象を起こしている痕跡が見当たらない。
 ただ、彼がそう念じただけで十字剣が存在している。
 つまりは―———

 「無尽蔵の具現化か!」

 対価を支払わない剣の具現化。
 それがテンの『ギフト』の正体だろう。
 テンは十字剣を手にする。そして、僕に投げつけてきた。 

 「————ッ!?」

 背中から抜いた短剣で薙ぎ掃う。
 しかし、その隙に間合いを詰めたテンが二撃目。 
 今度は手に握った十字剣を振るう。

 「疾い!?」

 尋常ではない剣速。辛うじて受けが間に合う。
 その一合から得られた情報が十字剣の恐ろべき軽さ。
 もっと早く気づきべきだった。いや、最初の投擲を弾いた時に気づくべきだった。
 無から具現化された剣に質量は存在していなかった。
 剣をかたどった空間に切れ味が存在しているようなものだ。
 重さも空気抵抗も存在しない剣。

 「————くっ! 速いはずだ」

 僕は後ろに下がり距離を取ると―———

 「クリム!」

 彼女の名前を叫ぶ。
 短剣に偽装した魔剣ロウ・クリムが業火を纏った長剣へ正体を現した。
 僕が剣を振るうまでもなく火炎がテンに向けて放射された。
 テンの肉体は炎に包まれた。

 「やったか?」と思わず呟く。

 しかし―———

 「2対1は卑怯だよね?」

 テンの声がした。
 そんなはずはない。炎に包まれているんだ。
 声とは空気の振動だ。 炎の内部で空気が存在しているはずがない。
 まして————

 彼の声が僕の背後から聞こえるはずがない。

 「だから2対2にしてみたよ」

 僕は背後を振り返る。
 それと同時にテンの姿を捉えて、剣を走らせた。
 テンの十字剣が魔剣を弾いた。
 それだけではない。 恐ろしい事に気配が感じるのだ。
 正面で対峙しているテンとは別に背後から接近してくる者の気配。
 その気配はテンと同質のもの————

 ならば、突如として現れた人物も当然————

 「「2つめの『ギフト』だよ」」

 テンは2人に増えていた。
 新たに現れたテンに対して、僕は無防備に背中を晒していた。 
 だから―———

 「————ぐがッ!?」

 背中に一太刀を浴びた。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 肉体に鉄が通過した感覚は冷たかった。
 その感覚は一瞬だけ―———次に感じたのは熱量。
 血と一緒に生命そのものが抜け落ちていくような感覚が襲い掛かってくる。
 だが……

 「お父さん、大丈夫!」

 クリムの悲鳴のような声が聞こえた。

 「傷口を焼いてくれ」
 「え? でも、それは……」
 「大丈夫だ」
 「う、うん」

 肉が焦げる臭い。悪臭が周囲に漂う。

 「ぐっ……がっあぁ!あぁ……」

 クリムを不安にさせないように苦痛を噛み殺そうとするも、漏れていく悲鳴までは止めれなかった。
 だが、苦痛を代償に対価は手に入れた。
 焼灼止血法。 傷からの流血は止まった。

 「驚いたよ。そこまでして戦い続けるのかい? 勝っても報酬はなく、負けても失う物はない。そこまでして、戦い続けたいのかい?」
 「……さて? どうだろうな? どうやら、僕は戦いが始まったら止まらないみたいだ」
 「自分で自分がわからないのか……人間だね」
 「そうだろ? 人間ぽいだろ?」

 僕は笑ってみせた。自分を誤魔化し、闘志を奮い起こすために————

 

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