超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

クリムの変化 サヲリ対『蟹』

 「・・・・・・戦いですらなかった」

 そう言う彼女に対して僕は動揺を隠せなかった。
 違う。今までクリムと様子が違う。
 何と言えば良いのだろうか? ・・・こう・・・・・・

 「・・・・・・成長している」

 僕の呟きが聞こえたらしく、彼女は笑顔で「うん」と答えてくれた。

 「成長と言うよりも器に精神が追いつき始めた・・・・・・それが、もう1人のお父さんの説明」

 「もう1人のお父さん?」と聞き返してみたが、僕にはそれが誰の事か、すぐにわかった。

 「サンボル先生の事かい?」
 「うん、あの城には私向けの施設が整っていたから、調整? 改良? よくわかんないけど、強くなれるならって頼んでみたの」

 「あぁ、確かに・・・・・・」と僕は思い出す。
 クリムは魔剣と人のハイブリット。その完成形であった。
 しかし、その性能と同等の効果を普通の人間に与える薬物の完成と共に、その必要性は希薄な物へ変わっていった。
 かつて、シュット城で戦ったあの少女マリアが使用したのが、その薬。
 だから、あの城には、そういう施設があってもおかしくはない。
 それを思い出した。僕に取って嫌な思い出だったけれども・・・・・・

 「サンボル先生が本当のお父さんってわかったんだ。それじゃ、僕はお役御免かな?」

 しかし、彼女はキョトンとした表情を浮かべた。
 もしかしたら、お役御免の意味がわからなかったのかもしれない。
 そんな僕の予想は外れていた。

 「え? お父さんはお父さんだよ?」
 「僕が偽物のお父さんだったってわかっても?」
 「うん? お父さんは偽物だったの?」
 「・・・・・・」

 話が繋がらない。

 「クリムに取って僕は何?」
 「お父さんがお父さんじゃないなら……恋人候補? かな?」
 「——————ッ!?!?」

 一瞬、僕の呼吸が止まる。
 不意打ち気味な言葉で頭が混乱していく。
 落ちつけ。落ちつくんだ僕。
 隣で嬉しそうなクリムを見ながら、自分に言い聞かせた。
 そう言えば、ドラゴンが言っていたなぁ。 
 クリムの幼さは演技だ。彼女はカマトトぶっていてる・・・・・・と。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 さてはて、落ち着こう。戦いは終わっていない。
 本来なら手の空いた僕ら2人は誰かの助太刀に入らないといけない立場ではあるが……
 みんな嫌がりそうだな。何だかんだで個人主義な所あるからなぁ。

 眼がついたのは―———

 サヲリさんだった。
 相手は四刀流の『蟹』だ。
 ジャグリングのように四本の剣を宙に投げながら、突きを繰り出している。
 本来は騎士のサヲリさんに取って外道中の外道みたいな剣術だと感じてるかもしれない。
 しかし、彼女は防戦一方だった。
 『蟹』の突きを自分の剣で弾く。当然ながら、『蟹』の剣は遠くに飛ばされて・・・・・・いや、『蟹』の手元に戻っていく。

 「バトラーみたいな念力を使ってる? いや、不可視のワイヤーか?」

 『蟹』は手元に戻った剣を、せわしなく上に投げジャグリングを再開する。
 わからない。気をてらうための剣術だとしても不自然すぎる。
 普通に二刀流の方が強いに決まっている。それなのに『蟹』は、何が目的であんな戦い方を?
 何かある。
 それじゃないと、剣術勝負でサヲリさんが押されているわけがない。
 すると横のクリムが「あの剣・・・・・・」と呟いた。

 「まさか、あれも魔剣なのか?」

 『教会』なのに魔剣なんて保持してていいのか? そんな文句も言いたくなったが……

 「あれは魔剣じゃない。あの剣はかわいそう。体をいじくり回されている」
 「・・・・・・改造されている? それじゃ、『蟹』の奴は、本来の剣術以外の部分でサヲリさんを追い詰めているのか?」
 「うん、たぶん・・・・・・あれは幻術とか、そういう部類」

 
 

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