超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』
『このユニークモンスターがすごい!』
「例えば、初見の魔物がいたらサクラさんはどうしますか?」
「どうすると言われてもなぁ」と僕は少し考えてから答えた。
「まずは様子見かな。離れた位置から観察。攻撃するにしても剣を使った接近戦は挑まない……かな?」
未知の攻撃に対して、どうしても対処は遅れる。
だから不用意には近づいたりはしない。
可能な限り安全な位置からの遠距離攻撃。投擲だったり、魔法だったり、弓矢……もちろん鎖術もある。
「でも、私なら……あっ! 珍しい魔物がいる! おいでおいでと撫でに行く可能性があります」
「なんだ? その自己判断は?」
いや、それがダメな点だと自覚してるなら直せよ。
「いやいや、これは魂に深く刻み込まれた本能……宿命と書いて『さだめ』と読むようなものでして……」
「まぁ、お前に危機感が欠如してるということは分かった……というか、前から知ってたよ」
「最後の一言は余計ですが……」とドラゴンはムッと膨れ面を見せた。
話は続く。
「問題はここがダンジョン化していて、ユニークモンスターが現れる可能性が高いというところなのです」
「お前が無計画……いや、本能的レベルで油断しやすいって話とユニークモンスターが出現しやすいと、どう話が繋がるんだ?」
 「あいつ等、私が苦手な『搦め手的な戦術』や『精神攻撃』が得意な連中が多くて嫌いなんですよ」
ドラゴンは吐き捨てるように言った。
「まったく、ウザったくて、メンドクサイたらありゃしませんよ! 滅べばいいのに!」
なるほど、ウザったくて、面倒だからだからサボろうとしていたのか。
あれ? それって普通にダメな奴なだけじゃ?
「いえいえ、違いますよ! サクラさん、少しお待ちください」とドラゴンは手を背中に回したと思うとノートを取り出した。
「無駄に露出の高い踊り子風衣装のどこに入れていたんだ? それ?」
「え? 人間化してる状態でも背中に1つだけ鱗を残してカバンの代わりに使っているのですよ」
ドラゴンはクルリと回って背中を見せてきた。
確かに小さな鱗があったが、どう見てもノートが入るような大きさではない。
「まぁ、そんなことよりこっちを見てくださいよ」
「なんだ? このノートは?」
「これは私が暇を見つけては自主製作した、その年のモンスターランキング――――『このモンスターがすごい!』です」
「おっと、久々に僕の第六感が危険信号を出しているぞ」
「そう言えば、先ほどのゴブリンボクサー戦で『まっくのうち!まっくのうち!』と幕之内コールをするのを忘れてました」
「そこはシュンとする場面とセリフじゃない! もう良い! 早く止めるんだ」
 「それでは『このユニークモンスターがすごい!』 略して『このモン』3018年ランキングの話に戻しまして……」
「くっ……止めても逃げられないのか!」
「まぁ、見てくださいよ。 毒系ユニークモンスター部門1位です」
「ん? 普通の猫に見えるのだが……本当に魔物なのか?」
「チッチッチ」とドラゴンを指を振る。
「この猫型モンスターの名前は毒々泥棒猫です」
「名前から察するに、ずいぶんと毒々しい猫だな」
「まぁ、実際に猫じゃなくて、猫に擬態した魔物ですからね。ちなみこれ、サクラさんが猫だと誤解して撫でたら死にます」
「撫でるだけで死ぬの!?」
「えぇ、人間なら即死です」と即答された。
「ちなみにコウガ国にあるケロちゃんのダンジョンで最深部付近に生息しています」
「そうか。最深部付近の魔物なら人類にとって未知クラスの魔物だ。そんな即死攻撃の魔物もいたとしてもおかしくはないか」
「私は、この猫を不用意に撫でまわした結果、ひどい目にあいましたよ! 」
「可能性とか言いながら、撫でましたって話は実体験だったのか!」
「あの時、ケロちゃんに八つ当たりして楽しかったなぁ……」とドラゴンは遠い目をしていた。
すこしだけ、ケロべロスに同情した。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「とにかく、お前がユニークモンスターが嫌いな理由は分かったよ」
「ようやく、わかっていただけましたか」とドラゴンは首を振りながら「やれやれ」と付け加えた。
若干、イラッとする。
「今のところ、敵はゴブリンばかりだ。さっきのゴブリンボクサーみたいなユニークモンスターがホイホイと登場するわけがないだろう」
「……いえ、言い難いのですが、前方をよくご覧ください」
「ん?」と促されたままに見る。
何もない。 しかし、前方は緩やかな曲がり道。 確かによく見ると奥に光源らしき物がありそうだ。
僕は慎重に歩を進める。 そして、その光の正体は……
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