超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

闘技者の秘密

 突き出したカウンターは軽くいなされる。

 ガっ

 石で殴られたような痛み。
 イスカル王の拳が僕の頬を捕えていた。
 しかし、さらに僕は前に出る。 それを止めるようにイスカル王の前蹴り。

 浮遊感

 前蹴りの衝撃が体が浮かぶ。

 ノックバック

 互いに距離が生まれる。

 「あれっ?」

 僕の体は僕の意志を無視した。
 下半身の感覚が消えていく。逆らうように踏ん張ってみたが、僕の片膝は地面に着いた。
 明確なダウンに会場が湧いた。
 イスカル王の打撃は予想以上のダメージを与えてくれたみたいだ。
 僕はイスカル王の追撃が開始される前に、なんとか立ち上がる。

 「……おっと」

 その途中にふらついて見せたが、イスカル王は攻撃を繰り出さなかった。

 (……少し、わざとらしかったか?いや……)

 僕は確信した。
 イスカル王は、この戦いを試合だと思っている。

 ————つまり殺し合いと思っていない。

 昨日のドラゴンの言葉を思い出した。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 ———昨夜———

 「闘技場コロッセウムと言うの旧時代からありましたよ。最も私が生まれるよりも遥か昔の時代ですけどねぇ」

 「コロッセウムとかコロシアムとか、発音の問題か呼び方はたくさんあったみたいですが」とドラゴンは続ける
 食事も終わり、睡眠時間の直前。
 「そうなのか?」と僕は宿の天井を見上げてぼんやりと答えた。

 「いつの時代も、どの世界でも同じような事を考えるものだな」
 「そうですね。巨大化し過ぎた王国は、その偉大さを民に知らしめるために、娯楽と食事の提供が義務付けられてたと―――まぁ、それはいいんですが」
 「……ん?」
 「いやぁ、コロシアムと言うと奴隷を戦わせる血で血を洗う残虐ショーと思われがちなのですが、実は違ったぽいですよ」
 「え?……あぁ、そう言えば、受付の時に……」

 僕は受付の言葉を思い出した。

 『過去には王族の方も闘技者として登録した事もあるのですよ』

 「という事は昔の闘技場コロッセウムもそうだったのか?」
 「そうですね。元々は亡くなった王への鎮魂の儀式だったってのもあるかと―———ここからが話の本題なのですが……」

 「ほう」と僕は正座して身を正した。

 「コロシアムの死亡率ってどのくらいだったと思います?」

 「むっ……」と少し考える。

 「そりゃ、真剣で戦うのだから5割……いや、相討ちだったり、勝った方があとから死亡する可能性も考えて……6割くらいだな」

 僕の解答にドラゴンはニヤニヤと笑った。

 「答えは1割です」
 「はぁ! なんでそんなに少ないんだよ!」

 「はぁ!と言われましても、そりゃ相手も同じ剣闘士で知り合いなわけですから……

 ぶっちゃけ、コロシアムって真剣勝負じゃなかったんじゃないですか?」


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・


 イスカル王が繰り出す剣技を荒々しく、素早く、変幻自在であり————
 そして、避けやすかった。

 (あぁ、なるほど……知っていたのか)

 僕は納得した。
 国民の前でドラゴンに寵愛してみせたのも計算だ。
 そして、僕との対戦をゴドーに止めされたのも計算。
 最初から、僕が前シュット国王殺害容疑者だったの知っていたから……
 僕をこの舞台に立たせた。
 それは―――全て―――

 「「「殺せ! 死ね! 殺せ! 死ね!」」」

 観客たちは物騒な声援を飛ばす。けれども、途中で―――

 「イスカル王! イスカル王!」

 王を称える声援を飛ばす。
 これだけのために―――いや、イスカル王に取ってこれこそが————
 最も、自分に相応しい報酬だと思っているのだ。

 ならば――― ならば―――

 「僕も―――いや……俺も答えてみせよう!」

 

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