超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

決闘代理人 再び

 
 「どうするんだ? これ?」

 僕は小声でドラゴンに問う。
 勝利の確信から、一転してクリムの敵対。
 修正案を―――

 「まだですよ。クリムの相手が私になれば1勝は確実。もう、勝確の実力者1人を……今から…」
 「いや、流石に無理だろ。素直にごめんなさいして、勝ち抜き戦にしてもらうしないんじゃないか?」

 「う~ん! う~ん!」と唸ったあげく、ドラゴンが下した判断は―———

 「まぁ、負けても約束を反故すればいいだけなので、気楽にいきましょう」

 「……うわぁ」と少し引いた。
 僕等の目前では、観客になるであろう民衆たちが熱狂している。
 この状態で負けたら、逃げると言い切るメンタルに思うところがないと言えば嘘になる。
 それにより、なにより————

 「それとも、サクラさんは、私が国王の妾に堕ちてもいいのですか?」
 「————いいわけないだろ」

 僕の返答に、ドラゴンの表情は……なんていうか……ニヤニヤよりも、ニマニマしてるって感じだった。

 「いやぁ、良い表情と言葉ですね。惚れ直しちゃいましたよ」

 「はぁ」とため息を1つ。「お前なぁ」と悪態をつこうとした。
 しかし、そのタイミング。 民衆からの声援に答えていたイスカル王がクルリと僕の方を見て————

 「おぉ、我が強き友よ。来ていたのか。ならば、話は早い」

 そのイスカル王の言葉は不意打ち気味で、僕は「……え」と呟いた。
 何を言っているんだ。まるで僕の背後に誰かいるかのように―――

 「————ッ!?」

 突然、僕の背後に人の気配が現れた。
 それも僕に纏わりつくような気配。そして、いつの間にか僕の肩に手を置いていた。
 ――――いや、置いていたなんて表現は似つかわしくない。
 まるで拘束するように掴まれていた。

 (コイツが……背後にいる人物がイスカル王チームの3人目……強い!)

 だが、3人目を確認しようにも、肩を掴まれただけで、全身が束縛されたのかのように動きを制されている。 
 間違いなく、コイツも規格外な力量。
 ――――しかし、どうしてだろうか? どこか……既視感?
 闘技者…… 強者…… 僕の人生で接点があったようにな……
 それも、そう遠くない話に……

 そんな忘却の彼方かた記憶を引き上げている最中―――

 「イスカル王、ご戯れを……」

 背後の闘技者は喋った。

 「この者は————トーア・サクラは、我が国では前国王の殺害容疑がかかった人物。すぐにでも、差し出されるがよろしいかと」

 その声、僕には聞き覚えがあった。

 「ハッハッハッ……相変わらずの堅物だな。友よ。貴様の忠義は美徳であり、その忠義が我に向かない事が何よりも悔しいものぞ」

 そうイスカル王は、背後の人物の名前を言った。

 「しかし、今は貴様も祭りを楽しめ。我が強き友―———

  ゴドー」

 その名前で、僕は背後の存在―――僕を拘束する男の正体を理解した。 

 聖職者モンクのように剃髪されたスキンヘッド。
 ドワーフたちが鉱山での作業着として好んで使っていたというジーンズ。
 昔の探索者が初期装備で使われていた革の服レザージャケットと素肌に直接、羽織っている。

 彼の名はゴドー。
 現シュット国王の決闘代理人だ。



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