超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

夢と希望の剥奪

 
 「いやいや、流石にドラゴンの私でも、ドン引きですよ。 過去に傭兵国家って国民全員が傭兵の派遣社員だったり、暗殺国家なんて王室が家族を暗殺する王位争奪戦を行う国なんて見た事がありますが、奴隷出身の王が建国した国の主要産業が奴隷って何を学んだのですか!」
 「僕に言われてもなぁ……ほらクリムが起きちゃうだろ?」

 そう言って話を逸らそうとしてみたが失敗した。
 それどころかドラゴンのボルテージが上がっていく。

 「いえいえ、考えてみてください。奴隷で経済を回すという事は生産性がある産業とは言えません。いずれ、国が経営破綻を起こすのが目に見えているじゃないですか!」

 ドラゴンは一気に捲し立てると僕の目前に顔を寄せた。
 血走った目。荒い鼻息。興奮状態だ。

 「いや、落ち着けよ……」

 僕の呟きで自身の状態に気づいたのか「ぜい……はぁ……」と荒い呼吸を落ち浮かせていく。

 「すいません。取り乱しました」
 「……一体、どうしたんだよ?」
 「私は嫌いなんです」
 「ん?」
 「人身売買と人が人を売りさばく行為と言いますか……人間は希望を奪われる……夢を奪われる行為が私は嫌なんですよ」
 「希望や夢か……」

 僕は考える。
 希望を抱く自由。夢を持つ自由。
 奴隷に身を落とすと言う事は自由の剥奪なのかもしれない。
 しかし――――

 「えぇわかっていますよ。人は自身の力では抗いきれない大きな渦のようなものに巻き込まれる事が多いってヤツですね」
 「いや、そこで自身満々のドヤ顔を見せられてもなぁ」

 僕は「あはは……」と笑った。笑った瞬間、僕は気づいてしまった。
 俺の手に刻まれた紋章。その内部には、人類最強の武器『龍の足枷』が収納されている。
 しかし、この『龍の足枷』は……
 本来はドラゴンを人の手で屈服させるために作られた物だった事を思いだした。
 もしかしたら、彼女はその時の自分を、まだ見ぬ奴隷と重ね合わせているのかもしれない。

 「う~ん う~ん」と俺は腕を組み、胡坐をかき、唸り声をだした。
 イスカルに奴隷産業を止めさせる方法を考え込む。
 明らかに僕の身の丈に合わない大きな野望だ。————否。不可能過ぎる野望。
 でも、身の丈に合わないと言うなら————
 近年に僕の身の回りの出来事に比べると何でもできそうな気がしてくるから不思議な感じだ。
 そうして悩み続けていると……

 「ど、どうしたんですか? サクラさん? お腹の調子が悪いなら、私に気にせず、お花摘みにでも……」
 「いや、ちげぇよ!」


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 そして、翌日。
 僕等は奴隷都市 イスカルに足を踏み入れた。
 さて……そもそも、僕らがイスカルにやってきた目的は、追手から身を隠すためである。
 オム・オント率いるトーア・サクラ捜索部隊は執拗に僕等を追跡してきた。
 それでも逃げ続けてこれたのは単純に戦闘能力の差だ。
 本来ならば、人類が対峙すら不可能なラスボスのドラゴン。
 人類最強クラスの冒険者の遺伝子を持ち、魔剣を融合を果たしたロウ・クリム。
 この2人を捕縛する人材は世界を見渡しても、存在するのか、どうか……
 だが、僕だけなら…… 最強の武器を有しておきながら……
 装備ができない、平凡レベルの探索者である僕だけ捕まえる方法は幾らでもあるだろう。
 だから身を隠す場所としてイスカルを選択した。
 奴隷都市という場所的に身分証明の重要性が異常に低いのだ。
 さて、そんな、こんなで到着した奴隷都市 イスカルの様子を言うと……


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