超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

コウガ龍神伝説

 目を覚ますと太陽が真上まで昇っているのが見える。
 あのあと、夜明け前に町に繰り出しても一般的な店は開いていないだろうと常識的な考えに至り、仮眠を取ることになったのだが、どうやら寝すぎたみたいだ。
 しかし、寝すぎたわりには体に違和感がある。
 木の根を枕にした野宿だ。体力の回復は万全といえないのだろう。
 まずはテントとか野宿に必要な道具を買わないと。
 そんな事を考えながら僕は体を起こそうとする。しかし、僕の体が動かない。
 まるで金縛り。ゴースト系の魔物か?まさか、ダンジョン外にまで進軍を!
 違った。よくよく見れば、僕の腹部を枕にしてドラゴンが幸せそうな寝顔を見せていた。
 さらに、僕の太ももを枕にしてクリムが寝ている。

 「……さて、どうしたものか?」

 そのまま、2人が自然と起きるまで動けなかった。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・


 「人、多くないですか?」とドラゴン。

 確かにそうだ。僕は周囲を見渡す。
 見渡す限り、人、人、人、ひと、ひと、ひとひとひとひとひひひひ……
 人ばかりだ。いくら、なんでも多すぎる。
 こんなの迷子に……

 「って、クリムは?どこに!?」

 もう、手遅れだったのか?
 慌てて振り返ると―――すぐに見つかった。

 「お父さん!これ買って!」

 クリムは道の端にある出店を指さしていた。
 あれ?出店?
 よくよく見ると、道の端にはずらりと出店が並んでいた。
 人ごみに紛れて気がつかなかった。
 クリムが指さす出店に近づく。
 真っ赤な果実に透明なコーティングがほどこされ、割りばしが刺さっている。
 そこはリンゴ飴の店だった。
 もしかしたら、クリムは自身のパーソナルカラーである赤にこだわりがあるのかもしれない。

 「まぁ情報収集になる……か?」

 僕は財布を開いた。

 「いらっしゃいませ!」と出店テキヤのおやじ。

 「リンゴ飴を3つ」

 「あいよ、3つね」とおやじは手慣れた様子で、こちらにリンゴ飴を渡した。
 僕はお金を払いながら――――

 「今日は祭りか、何か?」と聞く。すると―――

 「ありゃ、お客さん、何も知らずに来たんで?」
 「あぁ、旅の探索者なんだ」

 「へぇ、随分と若いのにがんばってんだな」とおやじは笑い、

 「今日は年に一度の奉納祭よ」
 「奉納祭?」
 「なんでも、数千年前に荒れて貧相だった土地を神様が救ってくださって、その感謝のため名産物である防具から一番出来のいい奴を神様に送るんだ」
 「へぇ、それはどんな神様だったんですか?」
 「おうよ、なんでも龍神さまで」
 「……龍神さま?」

 おかしい。胸騒ぎがしてきた。

 「なんでも、あっちの方角がから現れて、荒れた土地を一掃すると同じ方角へ帰っていきなさったそうだ」

 おやじが刺した方角はシュットの方角だった。
 と言うか、一掃? それって結果として土地を耕したことになっただけで…普通に破壊活動じゃないか?
 横にいるドラゴンにジトとした目を向けると―――
 アワアワと言い訳をしたくてたまらないけど、場所的にできず、バタバタと体を動かしているドラゴンがいた。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・


 「旧時代の話ですよ。まだ住処になるダンジョンも世界的に少なくて、今でいうところのラスボスたちの縄張り争いも盛んでして……この地のラスボスも……その私にだってヤンチャな時期があってもいいじゃないですか!」
 「いや、一見すると逆切れポイけど、元々、僕は叱ってるわけでもないから……」

 それよりも、増えるものだったのか……ダンジョンは……

 「あっ!ダンジョンが増えたり減ったりするのはトップシークレットですからご内密にしておいてくださいね!」

 その後、ドラゴンの説明では、ここら辺を根城にしていたラスボスがドラゴンの住処まで進攻してきたらしい。貧相な大地で困るのは人間だけではなく、ラスボスも同じなのだろう。
 それをドラゴンは返り討ちにした。
 さらに、それだけでは済まさず、一気に敵本拠地であるコウガまで押し返したそうだ。
 そして、そのまま相手の原型を留めないほどの攻撃を放ち、相手を消滅させたのだ。
 どうもドラゴンが大地に向けて放った一撃が天変地異となり、枯れた大地にいい方向で変化を与えたらしい。 
 その最後の一撃だけを、たまたま目撃した人間によって、ドラゴンはこの地で信仰の対象になってる……とか。

 「なんだ。お前、神様だったのか」
 「いやだな、神様なんて照れるじゃないですか」

 そんな不毛な会話を楽しんでみた。
 

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