超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

暴走(イレギュラー)

 だから……きっと、そうなのだろう。
 彼女の背中に刺さって見える剣。
 あれは、誰かが背後から突き刺したのではなく、最初からクリムの体内に内蔵されていた『魔剣 ロウ・クリム』そのものなのだろう。
 そして、彼女の体から奪われていた『本体』だ。
 なぜ、背中から飛び出しているのか?
 僕―――いや、俺の打撃が利いたのか?
 それもあるだろう。……たぶん、きっと。
 おそらく、本体を取り戻したばかりで体に定着していないのでないか?
 そうじゃないと、いくら強烈な衝撃を与えた所で、本体である魔剣を体外へ排出されるような弱点があるのは不自然さを感じる。

 いやー―――
 なによりも、クリムがつらそうな表情はなんだ?
 なにか、とんでもないイレギュラーが起きているのではないか?

 『コッキュ、コッキュ……』

 ……? 
 なんの音だ? 聞いた事のない異音が鳴っている。
 その音のクリムの体から聞こえてくる。
 しかし、クリムに変わった様子は……あった。クリムの肩回りに不自然な動きが起きている。
 そのまま、クリムは自身の背後へ手を伸ばしていく。
 そして、背中の剣に――――その柄を手で掴んだ。
 関節を変化させた?いや、骨そのものが変化? いやいや、そんな事よりも!

 メキッ……メキッメキッメキッ

 異音。
 そして、クリムの口からは叫び声が発せられる。
 まるで、ボス級魔物が放出する咆哮のように、夜の校舎に破壊の音が鳴り響く。
 けたたましい叫び声が収まり、俺はクリムを見た。
 さきほどの異音。
 その正体。
 それは、クリムが背後の魔剣を引き抜いた音だった。
 初めて見せた魔剣の刀身は美しく、力強さと儚さを同時に持ち合わせていた。

 (儚さ?なぜ、俺は儚さを感じたのか?)

 そんな疑問は次の瞬間には消え失せた。
 再び、クリムの咆哮。
 さっきまで両目に燈っていた知性の光はない。
 彼女の本体である魔剣を体外に抜き出した結果、彼女の精神にどのような影響を与えているのかはわからない。しかし、彼女の様子に『暴走』の二文字以外に当てはまる言葉はないように見える。

 「魔剣の魔力が体内に逆流している……だと!?」

 まるで魔物。 一匹の魔物が現れたかのように……
 彼女は、クリムは大地を蹴った。
 それはそうだ。
 彼女が極めて魔物に近しい存在に成ったとしたら、する事は1つだ。
 手にした凶器を、ただシンプルに人間に向ける事以外に行動はない。

 俺は向かって来るクリムに背を向けて駆け出した。
 逃げるわけではない。
 いくらなんでも、アレに無手で挑む自分のヴィジョンが思い浮かばなかったのだ。
 だから――――
 背後から迫り来るクリム。
 背中に凄まじい殺気――――というよりも高濃度の殺意が感じられた。
 俺は頭から飛び込むように地面に転がっているソレに手を伸ばした。
 ギリギリ、頭上に魔剣が通過していく感覚が伝わってくる。
 ソレを手にした俺は振り返って、クリムを見る。
 既にクリムは攻撃を開始していた。 高く振り上げた魔剣を勢いよく振りかざしてきた。
 対して俺は――――
 拾い上げた武器でクリムの一振りを弾いた。

 その武器は『龍の足枷』

 もちろん、巨大過ぎるモーニングスターを振るってクリムの攻撃を防いだわけではない。
 使ったのは、その一部だ。
 剣で言えば柄にあたる部分。 持ち手と言えば良いのだろうか?
 サイズは太鼓のばち。いや、それよりも、少し長いくらいの大きさ。
 少し派手な装飾を施されているが、武器として使えないわけはない。
 何より……武器として強度は最硬クラス。 人間が扱う既存の武器では絶対に破壊されない。

 さらなるクリムの追撃を弾き続ける。

 一撃、二撃、三撃……

 まさに猛攻。防戦一方の状況が続く。
 反撃する間がない。
 いや、しかし……なんだ?この奇妙な違和感は?
 こんな時に俺は何に気を取られている?

 一合、二合、三合……

 武器をぶつけ合っていく毎に膨れ上がって行く違和感。
 思い出した言葉がある。それは、サンボル先生の言葉だった。  

 
  『いくら魔剣と言っても長い間使ってきましたからね。
 武器として寿命は間近だったのを誤魔化し誤魔化し使っていたのですよ』

   

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