超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

ファイアデスマッチ

 ———夜の校舎———

 昼間の騒音は鳴りを潜め、静けさが支配している。
 やがて、1人の少女によって静けさは破られる。

 「あれ?サクラ?偶然だね」と彼女は――――
 ロワ・クリムは、そこにいた。僕は――――

 「いや、君に会いに来た」と答える。
 彼女は不思議そうな顔を見せた。
 前回同様、赤髪に深紅のドレス……
 そこは変わらない。しかし、彼女の装いに不似合いな物が増えている。
 不似合いな物と言うよりもパーツを表現した方が正しいかもしれない。
 それは、鎧だ。ドレスの上に、鎧の肩当だけが装着されている。
 やはり、鮮やかな赤色の肩当。新品同様であり、メタリックななめやかさ。 光をを当ててやれば、光沢の反射が綺麗に見えるだろう。

 「私に会いに来た? それはついに?ついにあの人が私のお父さんに会わせてくれるの?」

 やっぱり……やっぱり彼女は――――

 捨てられていた。

 頓挫した計画の小道具を、証拠にならないように綺麗にクリーニングして、すべての痕跡を消して……そして、破棄。
 彼女の変質は、むしろ暴走に近い。
 このままだと全く、別の存在へ変貌を遂げる。
 それはよくない。非常によくない。 
 もしも、真犯人が彼女の――――クリムの変貌を『龍の足枷』の譲渡に利用する計画を立てていたのなら、僕の事をよく調べている。
 もう、こんなにも、僕の感情を掻き立てられているのだから。

 「ねえサクラ、答えてサクラ……答えててばぁ」
 
 甘えてくるような猫撫で声。しかし、彼女から漂って来るのは敵対心。
 クリムの魔力が高まっていく。いや、暴走? 不自然な魔力の膨張。
 魔力から不安定さが感じ取れる。
 いや、そんな事を分析してる場合ではない。 
 前回と同じ……いや、それ以上の火力が僕に向けられていた。
 そして、それは火を噴いた。

 がががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががが……
 がががががががががががががががが…… ががががが…… ががががが……
 がががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががが…… がががががががががが…… がががががががががが……

 火炎魔法の機関銃。
 狙いを定める事すら忘れ、ランダムに獲物を狙う魔法の弾丸。
 破壊音。破壊音。そして、破壊音。
 無限に思えた銃声も、破壊音も、やがては止んだ。

 「へぇ、やっぱり、そのシールドはすごいね。全力で放射したのに、欠片も剥離できないなんてね」

 たぶん、そんな事を言っているんだろう。
 彼女の攻撃で鼓膜にダメージを受けた僕には正確に聞き取れなかった。
 僕の前には『龍の足枷』 前回の戦いと同じく、遮蔽物として機関銃を防いだ。
 しかし――――

 「でも、ここからは前回と違ってくる」

 そんな楽しそうの声が聞こえてくるようだ。 そして――――
 彼女の言葉とは反対に、ユラユラと揺らめいた光がゆっくりと近づいている。
 誘導弾。 逃げ―――っ!?
 愕然とする。 『龍の足枷』を迂回して、姿を見せた誘導弾。
 前回と違うのは、その数だ。
 10? 20?
 遮蔽物を迂回した火球は、同時に―――― 一糸乱れぬ動きで―――― 僕に襲い掛かってきた。
 回避も防御も不能。だったらどうする? だったら―――

 攻撃だ。

 同時に襲い来る火球をこちらの攻撃で――――それも一撃で、撃ち落とす。

 「初見なら、そんな発想に至らなかっただろうが、一度でも見た攻撃が通じると思うな」

 僕は集中する。 

 (イメージするのは巨大なカーテン)

 周囲に浮かぶ火球を飲み込むほど、巨大な布を炎をイメージし、それを腕から放出させた。
 クリムと同じ火炎魔法だ。しかし、その威力が違う。
 対人を想定して、人間を殺傷する事に特化したクリムの魔法。
 それは、僕らが学ぶ魔法とは根本的に違っている。
 僕らの魔法は合理的に人間を殺す事を考えていない。 
 僕らが魔法を向ける対象は、人間よりも巨大で、人間よりも頑丈で、人間よりも凶悪な存在であった。
 それを殺すための魔法。 魔物を殺す魔法は、クリムの火球を簡単に飲み込み
 ――――そして、消滅させた。

 「サクラ……その魔法は…お父さんなの?」

 クリムは無防備に近づいてくる。 小走りで、顔には動揺が見える。
 そのまま、2人の間にある『龍の足枷』をただの障害物のように扱い、回り込んできた。

 「その魔法、その魔法をサクラに教えた人を連れて来て今すぐに!」

 悲痛とすら感じられる叫び。クリムから、今まであった余裕が消えている。
 表現するとしたら…… そう、必死だ。その反応に僕は―――― 

 「……いやだ」

 断固として断った。 

 「え?どうして?どうしてそんな意地悪を言うの?」

 クリムは、本当に理解ができないみたいだ。
 だから、僕は、こう言った。

 「君がお父さんに、どんな感情を持っているのかわからない。愛情なのか?それとも憎悪や恨み?」
 「それは―――――」
 「だから、それを僕に向けてみたらいい」
 「え?」

 僕が憧れる英雄譚の登場人物は、こんな時、どうするだろうか?
 狂気を秘め、人を襲い……それでも、自分の父親を捜している少女。
 まるで、両親からはぐれてしまった迷子の少女にすら見えてくる。
 それは、錯覚なのかもしれないけれども……

 「誓うよ。僕は君が持つ悪意の感情を受け止めきってみせる。だから――――
 今だけ、僕が――――俺が君のお父さんだ」

 そうだ。結局のところ……
 俺は、彼女の事も救いたい。そう思ってしまっていたのだ。

 だから、やる。 

 ロワ・クリムという父親を捜して、一時は幽霊のような存在になった少女を――――
 殴り倒して、地面にひれ伏させて、屈服させて―――――救ってみせる。

 だから――――気づいた時には、既に僕の拳はクリムの顔面を捉えていた。

 

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