超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

ドラゴンの視点 その②

 私にはラスボスとしてダンジョンの様子を知る能力があります。
 しかし、セカンドハウスの購入に浮かれていたのでしょか?
 それとも、単純にダンジョンから離れ過ぎていたから感知能力が低下してしまったのでしょうか?
 事もあろうに! この私が事もあろうに、愛しのサクラさんのピンチを見過ごしてしまうなんて!
 娘が見ている鏡。それは、ただの鏡ではありません。高純度の魔力で具現化された鏡。
 当然ながら、映し出されるヴィジョンは光の反射ではなく、ダンジョンの様子です。

 「これは……なに?」

 鏡を通して伝わる情報は酷く曖昧。
 サクラさんを襲う相手の正体が掴めない!

 「物理無効?うちのモンスターではない?まさか……外来種の魔物???」

 あばばばば……
 そうこうしている間に、サクラさんの頭が鷲掴みにされました!

 「どどど、どうしよう!どうしましょ? サクラさん、なんかこう……ぐったりしてます!」
 「お母さん? 慌てるなら、どうして助けにいかないの?」
 「どうしてって……あっ!」

 そうです。行けばいいのです!
 距離を無視して、瞬時に望んだ場所へ移動する方法。それは――――

 時空の歪

 ダンジョンに幾つも存在して、ダンジョンの主である私ですらその数と場所を正確に把握しきれていません。
 しかし、私はソレを知っています。
 その理論性や存在や性質……その全てを知っていると言っても大げさではないのです。
 ならば……それを擬似的に作ればいいのです!
 あの日、ダンジョンに迷い込んだサクラさんを地上に送った時のように!

 まずは、魔力を、大量の魔力を排出。
 魔法の技術ではない。必要なのは物理法則を曲げさせるほどに圧倒的な魔力量。
 丁寧に魔力を大気に浸透させていきます。
 そして、残り香のようにダンジョンに残る私の魔力と同調させていく。
 魔力の遠隔操作。 私ですら超絶技巧と言わざる得ない難易度。
 イメージするのは、シンプルな扉。
 扉をくぐると、その先は、私のダンジョン。
 サクラさんがいる場所へ。
 そして、その扉は具現化して、私の前に現れました。

 「娘よ! 母は戦場へ行くのですよ! お留守番は頼みましたよ!」

 「お母さん、いってらっしゃい」と手を振る娘を背後に、私は扉に飛び込みました。


 カラッとした空気から、水分が含まれたジメジメとした空気へ変化を感じる。
 そして――――

 「その手を離しなさい!」

 私は怒鳴り声はあげました。

 「あらあら、いつの間に?あなたは……どなたかしら?」

 私の目の前には、サクラさんが倒れています。
 そして、サクラさんにさらなる危害を加えんようとしている少女がいます。
 私の声に反応してか、少女はサクラさんを捕まえていた手を緩めます。
 サクラさんは意識がないのか、ぴくりとも動かない。
 サクラさんの容態が気にならないと言うと嘘になりますが、敵から目を背けるわけにはいきません。
 少女と実際に対面する事によって伝わる情報。
 この階層にしては、不似合な戦闘能力。 確かに……サクラさんよりも強い。
 しかし、どこか不安定な存在として認識してします。
 注目する所は、全体的なステータスに対して多すぎる魔力……くらい?
 対面したと同時に、私の分析能力が発動して、相手の特徴を丸裸にしていきます。
 やはり、このダンジョンで生まれた魔物ではないみたい。 
 サクラさんの攻撃が当たらなかったのは、本体は別にあり、彼女は魔力によって浮かび上がっている幻覚みたいものなのでしょう。
 なら本体は? さらに彼女の魔力を分析して、本体の位置を探り……

 「あら、見た目よりスケベなのかな? 盗み見ははしたないと教わらなかったの?」
 「す、スケベですとおぉっ! 」

 流石に、本体の場所は教えれないとばかりに彼女は前進して、攻撃を開始して、さらには挑発で煽ってきました。
 私の内心は、激おこ状態ですよ。ぷんぷんムカチャカファイヤーですよ!

 でも――――

 「消えちゃった?」と少女の声が聞こえてきます。
 彼女にしてみたら、そう見えるのでしょう。
 彼女は強いです。 でも私から見たら中ボスクラス程度。
 ラスボスの私に敵うはずはありません。

 私の無造作に放った打撃が、クリーンヒットしました。
 私の拳速に音はついて来れず、遅れて巨大な破裂音を起こします。
 少女の幻影は、大気ごと削り取られて消滅しました。

 「つ、強い。これ、予想外」と少女の声だけが残ります。

 「へぇ、幻影が保てなくても言葉を発する事はできるのですか。少しだけ関心しましたよ」

 やはり、本体を叩かないと無意味なのでしょ。少女の幻影は、破壊した直後に再生を始めてます。
 さて、私の戦闘スタイルは、真の正体であるドラゴン形態と人間形態では大きく違います。

 巨大な肉体と膨大な魔力。それをそのままに、ありのままフィジカルを武器に戦うドラゴン形態。
 対して人間形態の私の戦闘スタイルは、実に人間的です。
 人間が戦うための能力として『スキル』と言われる特殊技術があります。
 それは人間が生きていく上に獲得する技術そのものであって、ステータスなどに表示される目安の1つに過ぎないのですが……
 人間には、その上の段階が存在しています。

 あるいは生まれながらの才能。
 あるいは激しい鍛錬の末に身につけるもの。 
 あるいは勉学に励んだ結果、天啓の如きの思い付き。  

 魔法のように技術開発された、ある種の学問的に身につける戦闘術とは違い、もっと原始的であり、内面から溢れだ戦闘術。
 まだ多くの人類には、その存在すら知られていない特殊技術。
 まだまだ、人類のブラックボックス的な位置のそれを『ギフト』と言います。

 そう、その通りです。
 私が人間形状の時にメインとして使用する戦闘術は、この『ギフト』を主軸としたものなのです!
 

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